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インターネットやSNSによって変化した、心の不調
─ B-sideのプロジェクトはちょうどコロナ禍だった2021年9月にスタートされましたが、どういう形ではじまったのでしょうか?
徳留:私自身、入社以来ほぼずっとアーティストのマネージャーを務めてきました。当時は気合と根性で何でもやる、というような時代でしたが、インターネットやSNSの出現でアーティストとファンの距離感が変わってきた影響もあって、アーティストの心の不調をスタッフが一人で背負うことがだんだんと難しくなってきたと感じていました。
海外の状況を調べてみると、イギリスやアメリカにはアーティストのメンタルヘルスをケアするシステムがちゃんとあって。日本でもそうした仕組みを作ったほうがいいのではないかと思い、周囲の同僚からも肯定的な反応がすぐに返ってきて、そこから創立メンバーが集まってパパパっと話が進んでいったのが約4年前のことです。昨年春からは部署として正式に立ち上がり、今は社内で様々な部門から20人くらいのメンバーが兼務で参加してくれています。

─先ほどSNSの話が出てきましたけれど、SNSの出現でアーティストの環境は変わったと感じていらっしゃいますか?
徳留:音楽業界に限らずですが、大きく変わったんじゃないですかね。自分の考えやクリエイティブを世の中に出すと、すぐに反応が来る。それが嬉しい時もあれば、ネガティブな時もあるでしょうし、スピード感は昔とはだいぶ変わりましたよね。
SNSの反応をエネルギーにできるアーティストもいますし、全てがネガティブに働くとは考えていませんが、常に見られているというような感覚は確実に大きくなっている。そこから生まれる不安などが、カウンセリングに行けば劇的に解決する、というわけではないかもしれませんが、モヤモヤしたものを吐き出す場所があることをまず知ってもらうところから始める必要があると考えています。
もちろんスタッフや家族、友達に話して解決するのであればそれで良いと思います。ただアーティストと一緒にお仕事をさせてもらっている組織として、困った時のためにこういうプログラムを用意していることを知っていただけると嬉しいです。
─B-sideが導入される前は、マネージャーの皆さんはどんなふうにアーティストを支えていらっしゃったんでしょうか?
徳留:今も昔もアーティストがいい状態でクリエイティブに専念できるように環境を作るというのが、スタッフの大きな仕事の1つだと思います。問題を未然に防ぎながら、それでも何か問題が起こった場合は、ちゃんと話を聞き、解決するように具体的に動くということですよね。
ただ昔は、良くも悪くもメンタルヘルスについて知らなかったから、無理やり乗り越えてきてしまっていた。サポートがないことにも気がついていなかったというか。時代が変わって、メンタルヘルスにしっかり意識が向くようになった以上は、自分を守る手段はやっぱりあった方がいいです。
アーティストの担当者として、こういう時にどう声かけすればいいかわからないということもあるので、プロの方に相談できれば心強いですよね。実際に、B-sideはスタッフからそういう使われ方をされているパターンがすごく多いです。調子が悪くなった人に何か声をかけた時に、全て自分の責任になってしまうと考えると負担が大きすぎます。スタッフからア―ティストへの声がけに限らず、現場のマネージャーが調子を崩した時に、上司としてどう接すればいいかなど、さまざまな状況で使われているという感覚です。マネージャー職であれば、アーティストと本当に近いところで仕事をするので、自分も一緒にジェットコースターに乗って不安定になってしまう危険性もある。そういう時も、専門家の先生にサポートをお願いして欲しいです。ケアする人をちゃんとケアしてあげることが大切だと考えています。