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野田と岡田、それぞれの「幸福な劇場体験」とは?
この日の話題は固い話ばかりではなく、2人の「幸福な劇場体験」について聞けたのは楽しい時間であった。野田が真っ先にあげたのは、16歳の時に日生劇場の2階席から目撃した伝説的な舞台、ピーター・ブルックの『真夏の夜の夢』(1973年)、そして清水邦夫作 / 蜷川幸雄演出の『ぼくらが非情の大河をくだる時―新宿薔薇戦争』(1972年)をアートシアター新宿文化で観た時のインパクト。続けて代々木八幡にあった青年座劇場で観た、岡部耕大演出『肥前松浦兄妹心中』(1978年)の印象も語った。ジャンプ台を逆にしたような美術を、ふんどし姿の男優たちが飛び降りながら演じる九州弁の芝居で、非常に刺激的だったとか。
「ガラガラの桟敷客席で最初寝そべるようなひどい姿勢で観ていたけれど、『これは』と、だんだん身体が起きてきた(笑)。期待しないで観る芝居がスゴかった、という体験」と語る。このエピソードは、初めて聞いた。キャストの中には若かりし日の風間杜夫や大竹まことがいたとか。思いもよらぬ強度のある作品、光る無名の俳優たちとの出会いも、演劇の醍醐味である。
一方岡田は、自身の作品をSTスポット横浜で上演していた若手時代のエピソードを話してくれた。ある日の本番を後ろから観ていた時、2列目あたりで観ていたカップルがピタッとくっついた。それは明らかに自分の作品を受けてのリアクションで、それを見てものすごく幸せな気持ちになったという。また初めての海外公演で「今日はすごく良い上演だった」と思った日はカーテンコールの回数も多く、「言葉が分からなくても、自分がいいと思ったときはちゃんと伝わる」と、自信が持てた経験となったと話す。
