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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

俵万智に聞いた、ネット時代に必要な言葉のトレーニング。クソリプや炎上、AIまで

2025.10.7

#BOOK

©新潮社
©新潮社

AIと創作の関係。機械に明け渡してはいけない「豊かな時間」とは?

—同時に、俵さんの言葉に対するある種の寛容さのようなものは、言葉への理解や興味、学びがベースにあるとも感じました。俵さんはSNSをすごく活発に使っていますし、本ではAIと短歌に触れられている章もあります。新しい言葉が生まれる場所に積極的に赴くのはどうしてですか。

俵:わたしの推しは「言葉」なんですよ。だから推し活(笑)。オタクの人って現場に行くでしょう。

—現場、確かに(笑)。

俵:それが一番近いと思う。AIにしても、ラップにしても、SNSにしても、言葉がうごめいているところには行こうかなって思いますよね。

—言葉と個人ってすごく密接につながっていますよね。俵さんの活動を見ていると、無理するわけではなく、いろんな言葉を積極的に知ることが、いろんな世代のそれぞれの考えを持つ人たちを知ることに自然とつながっているような印象を受けて、それってすごく素敵なことだなと思ったんです。

古い言葉であれ新しい言葉であれ、自分が知らなかった言葉に忌避感を持ちすぎず、新しく出会った言葉に心を開いて「いろんな考えを持った人がいるんだな」と思えたら、もっといい世の中になりそうだとこの本を読んで思いました。

俵:そうやって一つ自分の好きなもの、推せるものがあると、それが窓になって、世の中のいろんな人とつながれたり、興味を持てたりしますよね。わたしの推しは言葉ですけど、好きなものがあることは人生を豊かにしてくれるなと思います。

—それが、年齢や考え方の違いのようなものを乗り越える力になるという感覚もありますか。

俵:そうですね、違っていても面白がれると思います。説教したがる人も多いですけどね。「こんなことも知らないのか」とか言う人、マジで多すぎ! でも、そういう人が多いことを知っておいて、出会っても「また出てきたな」ぐらいにいなせるといいんですけどね。わたし自身は、古いものを守ろうとか、新しいものに媚びようとかっていう気持ちは全然なくて、全部ひっくるめていまの言葉のありようだと興味を持って、楽しみたいと思っています。

—AIに触れられている「そこに『心』の種はあるか」の章で、言語学者の川添愛さんが、「作品は副産物と思うまで詠むとは心掘り当てること」という俵さんの短歌を挙げながら、AIと人間を「作品を生み出すモノ」として比較すると、生産性の競争になってしまうと話されていました。AIがますます言葉の領域に入ってくるうえで、言葉の表面だけでぶつかり合うのではなく、言葉が生まれる過程をもっと見ていくために、どうしたらいいと思いますか。

俵:短歌をつくっていると、自分の心を見つめて発見したり、言葉を探して、選んで、削ぎ落として、紡ぐ過程が実は一番楽しいんですよ。その一番おいしいところを、なんで機械にやらせるの? っていうのが正直なところですよね。一番大事で、一番楽しくて、豊かな時間。それを機械に明け渡してしまうのは、もったいないよって、思うかな。わたしたちは別に短歌っていうプロダクトをつくるためにやっているわけではないんです。短歌をつくる過程で心を見つめることこそが、歌をつくる醍醐味なので。

たとえば、会議の議事録を機械的にまとめる作業をAIにやってもらうとします。その浮いた時間で、わたしたちはどれだけ豊かな時間を楽しんで過ごせるのか。何をやらせるかっていうこと以上に、浮いた時間をどう使うかが、これからAIと付き合っていくうえで実は一番大事なことだと思います。

©新潮社

—浮いた時間を豊かに楽しむという前向きさが、本当に俵さんらしいと感じました。言葉を生み出す過程を自分でやらなくなっていくと、言葉と人や、言葉と心が結びついていることを、より忘れてしまいそうになる気がします。『生きる言葉』を読んで、短歌をつくりたくなりました。

俵:お、いいですねえ。つくってください。心の筋トレみたいになると思いますよ。やらないとどんどん筋肉が減るし、かたくなります。やっぱり心を常に動かしておくというのは大事なことですね。

俵万智『生きる言葉』

■ 目次
1 「コミュ力」という教科はない
2 ダイアローグとモノローグ
3 気分のアガる表現
4 言葉が拒まれるとき
5 言い切りは優しくないのか
6 子どもの真っすぐな問いに答える
7 恋する心の言語化、読者への意識
8 言葉がどう伝わるかを目撃するとき
9 和歌ならではの凝縮力と喚起力
10 そこに「心」の種はあるか
11 言葉は疑うに値する

タイトル 『生きる言葉』
著者名:俵万智
造本:新書版・ソフトカバー 定価1,034円(税込)
発売日:2025年4月17日(木)ISBN 978-4-10-611083-2
URL:https://www.shinchosha.co.jp/book/611083/

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