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俵万智に聞いた、ネット時代に必要な言葉のトレーニング。クソリプや炎上、AIまで

2025.10.7

#BOOK

©新潮社
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経験も踏まえた「クソリプ」や「炎上」への向き合い方

—『生きる言葉』では、昨今のSNSで起きている問題として、「クソリプ」や「炎上」にも焦点が当てられています。俵さん自身も炎上の経験があると本に書かれていましたが(※)、心を痛めながらも、その現象を冷静に見ようとする様子が印象的でした。「言葉によって生まれる現象に関心がある」ことがやはり大きいのでしょうか。

(※)2016年の『ユーキャン新語・流行語大賞』の審査員を俵万智が務めていたとき、「保育園落ちた、日本死ね!!!」をトップ10に選んだことについてTwitter(現X)で説明を試みたところ炎上した。

俵:そうですね。でも炎上はなるべくなら、人生で経験したくないものの一つです。わりとメンタルは強いほうだと思いますが、渦中にいたときは相当やられました。それを救ってくれたのは、本には書かなかったけど、リアルの友達でした。そして平常心に戻ってからは、転んでもただでは起きないというか、やっぱり言葉が好きなので、「言葉の問題としてこれを見たらどうかな?」と興味が芽生えてきて。

炎上までいかずとも、クソリプも結構傷つきますよね。しょうもないと思っても、意外とダメージを受けてしまう。だから言葉の仕組みとして、「クソリプってこういうものなんだ」と知っておくことが自分を守ることにもなるし、大事だと思うんです。「俵さんが、クソリプクソリプ言っていて驚きました」と言われるんだけど(笑)、いまの日常において大事な問題だと思うので筆を割いて書きました。

—「言葉が拒まれるとき」の章の「クソリプに学ぶ」はすごく印象に残りました。

俵:そうそう。こうなったら分類して楽しむ、ですよ。

—本でも「物腰やわらかめだが、これもイラッとするクソリプだ」という文章など、キレがすごくいいんですよね。

俵:言葉への興味からくる「言葉の現象として観察しちゃおう」っていう開き直りがあるのかなあ。まあ、世の中には本当にいろんな人がいるからねぇ。そういう人と無防備な状態で接してしまうのが、SNSの宿命。でも本当に繊細な方は、特にXのような危険に晒される場所からは距離を置くというのも一つの方法だと思います。

©新潮社

—クソリプの分類図のうち、「主語決めつけ型」と「斜め上から型」についてお聞きしたいです。前者は「砂糖って甘いんだよなぁ」という投稿に対して「甘く思わない人もいる。国民の総意みたいに言わないで欲しい」というもので、後者は「世の中には味覚を感じられない人もいるんだが?」という例が挙げられていますね。

これはクソリプの例として挙げられているものの、「主語を大きくしないこと」や「味覚を感じられない人を想像すること」自体は、言葉を発するうえで自分も気をつけたいと考えていることでした。ただ、当事者の人を想像しようとして言葉を発することと、それ以外の人から「指摘を受けたくない」ゆえに自衛したいという感情が時に混在して言葉を発しているのではないかと自分に対して感じることがあります。不特定多数の人が閲覧するSNSでは、主語の省略された日本語表現が難しいと悩むこともあり、俵さんはその折り合いをどう捉えているんでしょうか。

俵:「こういうことを言ったら、思いがけない届き方をして傷つく人がいるかもしれない」という気持ちを持つことはすごくいいことだと思います。ただ、予防線を張るというか、「わたしは気付いてますよ」というアリバイづくりみたいにいろいろ書いていくことはちょっと逃げだし、文章の焦点がぼやけてしまうので、気をつけるようにしています。

わたしの場合は、「傷つく人がいるかもしれない」と自覚したら、基本的には書きません。それでも書きたいときは、たとえその人に届いても、真意が伝わる書き方をしなくちゃいけない。理想かもしれないけれど、そういう心がけは大事だと思います。

編集・柴田:映画や音楽に対する自分の感想を、SNSの短い文字数で「よい」「悪い」といった絶対評価に見えてしまいかねない言葉で表現することにも難しさを感じています。

俵:その場合は、好きなものを、好きになった理由や経緯とあわせて書いていけばいいんじゃないかと思います。わたしも推薦文を書くとき、「よい」「悪い」ではあんまり書きません。

編集・柴田:とても参考になるお話です。そのうえで、先ほどのクソリプの話のように、SNS上だと「嫌い」という意見を持つ人が集まる現象もよく見るなと思います。

俵:悪口のほうが人は面白がって集まってくるんだよね。世間的なニュースでもそうですよね。「こんなひどい先生がいる」ことはすぐニュースになるけど、「こんな素晴らしい先生がいます」というのはよっぽどじゃないと取り上げられないから。世の中の仕組みは基本そういうもの。ならばなおさら、好きなものについて語っていくほうを自分は全力でやりたい気はしますけどね。

—俵さんの発信されている内容を見ると、「せっかくだったらものごとを肯定的に見たい」という姿勢を感じます。きれいなところだけを見ているわけではなく、苦しいところに立っても、いいところを見ていこうとする気概のようなものというか。

俵:それは性質ですね。息子からは「芸風」って言われました(笑)。文学の世界だと、「歌に批判精神が足りない」という言い方で批評されることもあります。それなりに受け止めてちょっと落ち込んだりもするんですけれども……。あるとき息子に愚痴っていたら、「いや、それはもうおかんの芸風だから」って言われて。そうか、芸風なら極めるしかないな! と思いましたね。

—面白いですね。その言い換えもまた、言葉の一つの魅力というか。「芸風」と言われると見え方が変わります。

俵:そう。それは本当におっしゃるように、言葉の力ですよね。短所や欠点だと思ってしまうとマイナスな気持ちになるけど、芸風だったらもう極めたほうがいいかなとさえ思える。

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