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人に迷惑をかけずに生きるのは無理。子育てから学んだ「弱みを見せること」
—『生きる言葉』には、子育てや息子さんとのエピソードが数多く登場します。教育の場面で「みんな仲良く」と謳われるなかで、子どもたちの喧嘩を大人が前もって回避したり、争いの種を摘んだりするという話がありましたね。SNSの環境もあり、大人も同質的なコミュニティに所属することが可能になりつつあります。それはよい面もありつつ、考えが違う人と意見を交わすことに不慣れである状況にもつながると感じます。俵さんはそのあたりをどう捉えていらっしゃいますか。
俵:いまの日本の社会では、子どもたちの多くは進学に関しても成績で輪切りにされて、クラスでも気の合う子同士で固まりますよね。それはそれで居心地がいいと思いますが、ひとたび世の中に出れば、たとえば仕事ではそんなことを言っていられない場面も訪れるわけです。いろんな立場や考え方、背景の違う人と一緒に環境をつくれる力というのは、本当に生きる力に直結すると思います。
だから、なるべく子どものうちにそういうことでいっぱい失敗したり、経験を積んだりすることは、ものすごく大事。子育てをしていると、たとえば私立の学校などでは、「世の中がみんなこんな感じである」と錯覚してしまうほど、親や家庭環境もどこか似た感じの人たちで集まることができてしまうと感じます。なるべくそうじゃない場面を意識してつくることが大切なのではないかなとわたしは思うんですよね。

—俵さんは、石垣島や宮崎で子育てをされていたんですよね。引っ越し先でもわりとすぐに馴染めるというお話を以前拝見しましたが、慣れた環境から離れることに前向きに向き合えるのはなぜでしょうか。
俵:もともと人見知りしないし、人と会うのも好き。でも基本的にはインドア派なので、ここまで活発になれたのは、子どものおかげですね。
子どもが産まれる前は、自分で稼ぎながら都会で一人暮らしをしていて、「誰にも迷惑かけずに生きてる」と思っていました。でも実際に子どもをもってみたら、「いや、人に迷惑かけないとか、マジで無理」ってことが判明して……。だから子どもをもって一番変わったのは、「人に迷惑をかけないで生きることが大事」ではなく「こいつだったら迷惑かけられてもしょうがないと思ってもらえる関係を築くことが大事」ということですね。それが生きる力なんだと思うようになりました。
—大切な話ですね。
俵:そのマインドがあったから、あっちに住んだり、こっちに移動したり、活発に動けたんだと思います。それに「助けて」と言って自分の弱みを見せるほうが、人は助けてくれるんですよね。「あの人は完璧に、自分で自分のことをやれる」という人に、まわりの人は手を出しません。わたしも以前は「完全に自立してる」くらいの偉そうな感じで生きていましたけど、子育てを始めてからは母子家庭で、周りの人たちに助けてもらわないとやってられない状況もあって。そのときに、むしろその欠落しているところを埋めるかのように、人とのいろんなつながりや、助けが入り込んできた感じがすごくあるんですよね。
—さっきの同質的なコミュニティの話に少しつなげると、「周りとだいたい同じ」とか「似ている」という意識のなかでは、「みんな我慢しているのに」とか「なるべく波風を立てないようにしなくちゃ」と思ってしまい、助けを求めづらい心理が働く気がします。
俵:そうですね。同質性のなかにいると、人と違うことがよくないと恐れてしまうのではないかと思います。でも「わたし、ここが足りないので」と言うほうが楽だよって伝えたいですね。