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NOT WONK加藤が語る『FAHDAY2024』と街の文化。再開発される街で守りたいもの

2024.9.17

#MUSIC

加藤修平がNOT WONK / SADFRANKとして活動してきたこと、そのすべてのアクションに通底してきたのは、「自分 / あなたの価値を誰かの手に委ねてはいけない」という姿勢である。彼がパンクに共鳴してきたのも、オルタナティブという言葉を単なるジャンルとしてではなく「生きる道の選択肢」として表明してきたのも、構造とシステムによって命に値札が貼られ存在が数値化されていくばかりの現代を生き抜くための新たなユニティを求める精神性からだった。2019年に地元・苫小牧で開催された『YOUR NAME』では、個々の存在のミニマムな証明である「名前」を掲げ、名前を呼び合い対話を重ねることから生まれる信頼と自治を求めた。さらに2023年に『gel』をリリースしたSADFRANKでは、人々に投げかけた「存在とは」という問いを自らに向けるようにして、自己の輪郭を求めながら音楽の宇宙を旅し続けた。常に個人に向き合い、そして個人の存在を押し流さんとするものにNOを突きつけ、生きて生きて生き続けることを鼓舞する視座が彼の表現を前に推し進めてきたのだ。

そんな加藤が興した新たな祭りが『FAHDAY 2024』であり、開催発表とともに放たれたステイトメントの言葉を借りれば「表現の交換市」という看板のもとに人が集う新たな広場だ。

2020年から数年続いたコロナ禍によって半ば強制的に地元・苫小牧で長い時間を過ごしたこと。その日々の中で、加藤が見過ごしていた人の営み。そして、その営みこそが個々の命の主張であり、止まることなく積み重ねられてきた文化そのものなのだという視座——それらを束ね、街という文化の中で交わった人々と手を取り、人と人の連鎖によって大きな円を描きたいという精神性が表されるであろうこの市場について、加藤に洗いざらい語ってもらったのがこのインタビューである。結果として、加藤という人間の一切変わらぬ人間観と、今我々が手元に手繰り寄せるべきものがクリアに見えてくる語録となった。

加藤修平(かとう しゅうへい)
NOT WONK/SADFRANK。1994年苫小牧市生まれ、苫小牧市在住の音楽家。2010年、高校在学中にロックバンドNOT WONKを結成。2015年より計4枚のアルバムをKiliKiliVilla、エイベックス・エンターテインメントからリリース。またソロプロジェクトSADFRANKとしても2022年にアルバムをリリース。多くの作品で自らアートディレクションを担当している。

全部を自分でやり切ろうとした『YOUR NAME』だったのに、到底無理だった。

ー加藤さん考案によるイベント『FAHDAY2024』(ファーデイ)の開催が発表されました。本イベントを「表現の交換市」と位置づけるステイトメントも同時に発信されていたわけですが、そういった精神性、このイベントに至るまでの経緯を教えていただいてもいいですか。

加藤:2019年に苫小牧のELLCUBEで開催した『YOUR NAME』以降、「何かをやらないといけない」っていう気持ちだけがあって。今回の『FAHDAY』は地元の仲間やお店に力を借りながら開催するものですけど、振り返ってみると、2019年の『YOUR NAME』はそれと真逆のものを志していたんですよね。全部自分でやります、全部を自分で制作しますっていう。チケットもNOT WONKの3人の手刷りで、クロークも僕がやって、チケットのもぎりもやって。何しろ3人でやり切りますっていう気持ちで、2019年の7月から半年で準備したものだったんです。

『YOUR NAME』2019年12月7日@苫小牧ELLCUBE(撮影:桑島智輝)

加藤:で、262人のお客さんと24組のオープンバンド(※)、スタッフを合わせた、368人。その一人ひとりの楽しみ方が繋がっていくことによって、本当に素晴らしい1日になったと思うんです。ただ、全部を自分でやり切りますと言って始めたイベントだったのに、そこが到底無理だったっていうのがあって。「一人ひとりに向き合いたい、だからDIYでやる」というイメージだったのに、フタを開けてみたら、ストーブに全然灯油が入ってないとか、そういうことに全然手が回らなかった。そういう一つひとつを、誰かに手伝ってもらうことばかりだったんですよ。

※『YOUR NAME』のオープンステージ企画に出演したバンドのこと。2019年7月5日11:00から7月6日10:30までの期間に応募した全アーティストが出演。出演者には、Gotch、Discharming man、突然少年、やっほー、TIMELY ERROR、The Triops、SUP、インディーガール、まえだゆりな、BANGLANG、INViSBL、ザ・ジラフス、脱兎、Hue’s、SEAPOOL、And Summer Club、LADALES、JEEP、The Big Mouth、cult grass stars、zo-sun park、Dr.NY、MAPPY、大久保光涼が名を連ねた。

ーひとりで頑張ろうとしたことでむしろ、誰かの力を借りていいということに気づかされた?

加藤:そうなんですよ。全部ひとりでやろうなんて考えていたのは俺だけだったのかもしれないっていうことに気づけて。オープンバンドとして出演してくれた人も、お客さんも、「これは私が手伝わないといけないな」って思ってくれていたんだなって痛感したんですよ。なので、全部自分でやると言いながらもたくさんの人に手伝ってもらう結果になった『YOUR NAME』は、到底DIYと呼べるものじゃないっていう着地をしたんですよね。それに、DIYが最も意味を持つのって、DIYでやることが最大のクオリティを生む時だと思うんですよ。そうじゃない限りDIYのイベントなんてやらないほうがいいとすら思っていて。

ーひとりでやること自体が目的になって、その結果クオリティが低いんだったら本末転倒ですからね。もちろん『YOUR NAME』は素晴らしい1日だったし、素晴らしいライブの連続だったわけですけど。

加藤:DIYでやると言い張りながら人の助けをどこかで待っている状態だったとしたら、慈善の搾取でもありますからね。だったらフェアな形でみんなに力添えをお願いして、ひとつの場所を作ろうと思った。それが今回の『FAHDAY』に至る考え方の出発点でしたね。

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