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テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』――セラピーとしての詩

2024.4.27

#MUSIC

巨大なテイラー・スウィフト像と、本当の自分

テイラーは『Midnights』から取り繕うことを徐々にやめているように思う。リリックは深刻さを増し、吐露される内容は赤裸々だ。

”But Daddy I Love Him”はアルバムの中でもライブで合唱されるようなアンセム的楽曲。しかし歌っているのは監視の目を向ける周囲に対する非難だ。巨大なファンダムを抱え、様々な意見に晒され続けてきたテイラーならではの悩みを皮肉まじりに歌っている。

Now I’m running with my dress unbuttoned(ドレスのボタンが外れたまま走ってる)
Scrеaming, “But Daddy I love him!”(「でもパパ、私は彼を愛してるの」って叫ぶ)
I’m having his baby(彼の赤ちゃんを身籠ってるの)
No, I’m not, But you should see your faces(冗談だよ、でもそのひどい表情自分で見てみなよ)
(中略)
I’ll tell you something right now(今言っておくことがある)
I’d rather burn my whole life down(自分の人生なんて焼き払ったほうがマシ)
Than listen to one more second of all this bitching and moaning(これ以上ごちゃごちゃ言われるくらいなら)

”But Daddy I Love Him”

13曲目”I Can Do It With a Broken Heart”で描かれているのは、2023年に始まった『The Eras Tour』の時の心情だろう。

They said, “Babe, you gotta fake it til you make it”(成功するまで偽ってごまかせばいいって言われて)
And I did(そうした)
Lights, camera, bitch smile(ライト、カメラ、ビッチ、笑顔)
Even when you want to die(死にそうな時でもね)
(中略)
I’m so depressed, I act like it’s my birthday(もう憂鬱なの、毎日誕生日みたいに振る舞うのは)
Every day(毎日)

彼女はこのツアーで10億ドルを売り上げ文字通りのビリオネアとなった。世界中がテイラーを見ている。彼女の現ボーイフレンドであるトラビス・ケルシー(Travis Kelce)が出場するアメフトの試合には彼女の熱心なファン=スウィフティたちが駆けつけ「テイラー・スウィフトの彼氏頑張れ」とボードを掲げるらしい。アメリカは今彼女の発言で政権が傾くとさえ言われる。彼女が持っているものはあまりに巨大だ。それにテイラーは疲れ果てている。この楽曲のエナジーは、死にたいと思いながらステージでスポットライトを浴びるテイラーが取り繕う空元気のように感じる。

30代という年齢というのもひとつのテーマになっているように思う。誰にでもある、社会から求められる年齢像と本当の自分との齟齬や溝。フレンチコーヒーを飲む大人を思い描いていたはずが、子供用シリアルしか食べられない(”The Manuscript”)。早熟なのは、成長してないということ(”But Daddy I Love Him”)。世界中が注目するポップスターは蜘蛛の巣が張った家のベッドルームで1人打ちひしがれている(”Who’s Afraid of Little Old Me? “)。テイラーは、ヒットを生み出す機械ではなく、1人の人間だ。

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