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Shing02×粉川心対談。価値観の転換期を迎える現代に、2人が見つける絶望と希望

2024.4.11

#MUSIC

“Kujira”に込めた怒りと希望「とことん地に落ちないと気が付かない部分ってある」(Shing02)

―“Kujira”に関してはどのような着想から制作がスタートしていて、Shing02さんとどのようなやり取りがあったのでしょうか?

粉川:壮大なテーマだったので、すぐに「これは絶対Shing02さんにやってほしい」と思いました。「自然界が人間界に対してどう思っているのか。日本語でリリックが欲しいです」というオーダーをさせてもらったのが最初です。

―なぜそのオーダーをしたんですか?

粉川:人間と自然の関わり方みたいなことにはずっと興味があって、Shing02さんはそれについてかなり深いところまで哲学を持ってはるなと思ったので、その一番面白い部分を引っ張り出せたら最高だなという着想ですね。

―タイミング的に言うとやはりパンデミックがあって、人間を中心とする世界のあり方に対する懸念が改めて議論をされたことも関係しているのでしょうか?

粉川:いや、ずっと同じレベルでそういうことは考えてるので、何かしらの答えがここで提示できたら、すごく意義深いものになるんじゃないかなというのがありました。Shing02さんにこのテーマを振ったときに、「3段階あるけどどれにする?」って言われたんです。人間が存在することがポジティブな歌詞にしたいのか、逆にネガティブな、闇の方のメッセージを強く出したいのか、その中間を取っていいバランスでリリックをまとめた方がいいのかっていうのを、井上(典政)くんのスタジオに向かう行きの車で相談して。

―京都にあるjizueの井上さんのスタジオで制作をしたそうですね。

Shing02:普段の自分の環境でのコラボレーションもたくさんやってますけど、僕はスタジオで集中的にやるのは良いことだと思っていて、セッションと同じで、その場でしかできないことが起きる。もちろん歌詞を書くには多少の時間をもらいますけど、もうスーパーサイヤ人みたいな気持ちで、その時間の中で本気を出すんです。

粉川:さっきのShing02さんからの投げかけに僕は「中間」って言ったんですけど、あとで少し後悔したんですよ。なんで中間をとっちゃったんだろうなって。僕が特に興味があるのは怒りの部分なので、怒りのオーダーをしたときにどうなってたのかなっていうのが、今日一個聞きたかったことです。

Shing02:でも曲を聴いたらわかるように、結局怒りの方が80%ぐらいで。僕の仕事は曲の世界観に寄せてストーリーを作っていくことで、曲がすごくダークな感じだったから、深海というか、光が届かないところから始まるイメージになったんです。ただ僕は手塚治虫のファンで、彼の作品はどんなにダークなストーリーでも絶望っていうのはなかなかないですよね。どこかちょっとした希望がある。そこは僕のイズムに完全に組み込まれてるんです。今回のストーリーに関しても、自然界からしたら人類っていうのは迷惑な存在でしかないかもしれない。だけれども、長い長い歴史をズームアウトして見たら、これからどうなっていくんだろう? みたいなところもあるじゃないですか。

―だからこそ最後は<このまま進めば発見しかない>で締めくくられる。

Shing02:むしろそこだけが希望みたいな、そんなオチですね。

粉川:さっきの車の中で話をしたときに、Shing02さんがポロッと「人間はもう滅んだ方がいいよね」って言ってはったんですよ。

Shing02:そんな真顔では言ってないですよ(笑)。そんな怖い人じゃないです。要するに、とことん地に落ちないと気が付かない部分ってあるじゃないですか。これだけ資本主義が進んで、貧富の差がどんどん広がって、世界中でデモが起きていて、状況は本当に良くない。今回のコロナが何だったのかは誰にもわからないですけど、人間は一度リセットして、いろんな価値観を正すときなんじゃないかなっていうのは、普通に思います。いろんなことがふるいにかけられて、何かに気づいた人も非常に多いと思うんですよ。逆に、それまでもずっとストイックに続けていた人は、そのままただ単に続けていくだけだと思うし。

―粉川さんどうですか? 人間は一度滅びた方がいいと思いますか?

粉川:実は僕もそれをずっと思ってたので、運転しながらその言葉を聞いたときに「やっぱりそうか!」って、勝手に拍車がかかっちゃってたんですけど……ちょっと抑えます。

Shing02:あんまり真に受けないでよ。ギャグなんでね。ひらたく言うと、自分たちを人類としてくくれば、自業自得の部分があるよねっていうことです。

―リリックはもちろんアレンジとも紐づいていて、まさに鯨を連想させるような、海の壮大さが感じられるトラックになっていますね。

粉川:ドラムだけで曲の世界を表現しようと思ったときに、ドラムの音をすごく増幅させたんです。倍音や、面白い周波数的なところを極端に跳ね上げて、空間を埋めたっていう感じ。そういうことをやってるドラマーもあまりいないっていうところがまずひとつ自分の中で面白かったのと、その方が音が強くなったので、メッセージの強さ、テーマの強さとハマるなと思って、ああいう音作りにしました。トラックの音に関しては京都のハナマウイスタジオの宮さんと一緒に実験を繰り返しながら作り込みました。

今回もう一つ実験的だったのは、フリーテンポでやるドラムがすごく好きなので、テンポを全くなくしたときに、Shing02さんがそこにどうラップをあてはめるかなと思って、それを実験的に投げました。これは嫌やって言われてもいいやと思って投げたんですけど、難なく乗りこなされましたね。

―中盤のパートですよね?

粉川:そうです。あそこはリズムの一貫性が全くないんです。でもそのうえで見事にラップをしてくれはって最高でした。どこでも聴いたことのないモノになったので、あの部分が一番気に入ってます。

Shing02:リズムに一貫性はなくても、曲全体のテンポは何かしらあるわけですから、そこにとりあえず割り当てるというか、ストーリーの起承転結をうまくあてはめるという感じですよね。そういう僕らが半ば実験的にやったことが、いろんなイメージを喚起するようなものになったのであればすごく嬉しいですし、最終的には本当に自由に解釈してほしいなと切に思います。ちなみに、あの鯨の鳴き声はどうやって録ったんですか?

粉川:kottのベーシストの岡田康孝がダクソフォンっていう楽器を演奏してるんですけど、それを弓でこすった音に沢山のエフェクターをかけた音ですね。彼は鯨の声を出すことに非常に強いこだわりを持ってまして、レコーディングでも一発で完璧なテイクを出してくれました。kottにも深海のストーリーを紡いだ曲があるのでその辺のイメージの共有はスムーズでしたね。

―改めて、粉川さんは曲の出来上がりをどう感じていますか?

粉川:パーフェクトですね。

Shing02:井上さんのおかげもありますね。

粉川:そうですね。井上くんもすごくスムーズにレコーディングを進めてくれましたし、Shing02さんとの関係値もあるから、リラックスした空間でできたのも大きかったです。あんなに実験的にやったのに、メッセージと、曲のストーリーと、起承転結の流れが見事にパッケージングされたなと思って、あれはもう奇跡としか言いようがない。多分2度とあんなことにはならないんですよ。そこが即興の好きなところではあるんですけど、本当に奇跡が起きた作品だなと思ってます。

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