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ルーツを失いつつあるカントリー
しかし、20世紀になり音楽の商業化が進むと、カントリーは白人の音楽というパブリックイメージが普及していき、徐々にそのルーツから離れていく。業界はアフリカン・アメリカンのアーティストを軽視し、政治的、保守的なファンの基盤を保持し続けた。
2003年には、テキサス州出身の女性3人組カントリーグループのDixie Chicks(2020年にThe Chicksに改名)が、ブッシュ元大統領下のイラク戦争を批判した。それを、保守的なカントリーリスナーたちが許すことはなかった。バンドは痛烈な批判を受け、ファンは離れていき、ほぼキャリアの終焉にまで追い込まれたのだ。

2016年、ビヨンセは『第50回カントリーミュージックアワード』にて、The Chicksと共にアルバム『Lamonade』収録のカントリーソング”Daddy Lessons”をサプライズパフォーマンスした。ビヨンセはテキサス州ヒューストン出身であり、故郷テキサスでの父の教えと絆について歌った讃歌であったにもかかわらず、SNS上ではカントリーファンから痛烈な批判を受けた。「黒人にカントリーはふさわしくない」「カントリーをマーケティングに利用しているだけ」という言い分だ。The Chicksの事件から13年の時を経ても、保守層の白人は、リベラルなビヨンセがカントリーを歌うことを許さなかった。
ビヨンセは自身のInstagramで、明らかにこのできごとと思われることについて、このように語っている。
何年も前に、自分が歓迎されていないように感じた経験をしたことがあり──確実に歓迎されていませんでした──この作品はその経験から生まれた作品です。(It was born out of an experience that I had years ago where I did not feel welcomed…and it was very clear that I wasn’t)
Instagramより
そのようにして、5年の歳月をかけて完成した『COWBOY CARTER』。同作は、南部のプライドとしての彼女の挑戦だ。
