とても真摯に「音楽」や「人の心」と向き合っているバンドだと思う。2021年5月結成、2023年9月に1st EP『Daze』を完成させた、5人組の現役大学生バンド・HALLEY(ハレー)。
ジャズ、ソウル、ヒップホップなどを基盤にしたバンドの中でも、複数のメンバーがさまざまな国で幼少期を過ごし、アメリカと韓国のゴスペルをルーツにしながら韓国R&Bを経由した歌を響かせているのが、HALLEYの他に類を見ない個性だ。そこに自分自身の深い部分を覗き込んだ言葉が乗り、人知の及ばないところにまで連れていってくれるような音楽を生み出している。
ボーカリストでありすべての楽曲の作詞を手掛ける張太賢(チャン・テヒョン)に、このサウンドを作り上げているHALLEYのルーツや彼自身の生い立ち、「音楽は自分で培ったものではなくいただいたもの」という価値観について聞いた。
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早稲田のブラックミュージックサークルへ飛び込んだ
―こうやってインタビューを受けるのは初めてだそうですね。まずはバンド結成の経緯から聞かせてもらえますか。
テヒョン:もともと僕は中学を卒業してすぐくらいからずっと弾き語りをしていて、千葉のライブハウスとかで1人で歌っていたんです。上智大学に入ってからも弾き語りサークルで3年くらい過ごしていたんですけど、先輩がBee Geesの“How Deep Is Your Love”を卒業ライブで歌っているのを見て、「こういうジャンルを歌う人がいるんだ」と思って。その先輩が「the Naleioに行ったらこういうジャンルをやってる人がいっぱいいるよ」と教えてくれて行ってみたことがきっかけです。そこでHALLEYのメンバーと出会いました。

―the Naleioといえば、早稲田大学の歴史あるブラックミュージックサークルですよね。
テヒョン:BREIMENさん、坂本遥さん(エドガー・サリヴァン、MEMION)などの先輩もいますし、「音楽をやってる人に出会えるサークル」として巷では有名ですね。僕は早く音源を作って出したいという欲が大きかったので、パートナーを探そうという想いで行きました。最初にドラムの(清水)直人を見つけて、キーボードの(西山)心を誘って、そのあと心の友達だったギターの(登山)晴が加わって、僕が大学1年の時から知っていたベースの(高橋)継を呼んできて、というのが結成の経緯です。

東京を拠点に活動している5人組R&Bバンド。2021年5月、早稲田大学ブラックミュージックサークル「The Naleio」での出会いをきっかけに結成。2023年9月1日に1st EP『Daze』をリリース。10月4日よりTOKAI RADIO『TOKAI RADIO MUSIC PROGRAM SESSIONS 929』(毎週水曜21:00~21:40)のパーソナリティを張太賢が担当。
―それが2021年5月ですよね。HALLEYは5人ともがキープレイヤーだと思っているのですが、どんな音楽をやりたくて集めた人たちだったのでしょう。
テヒョン:みんなブラックミュージックが好きでthe Naleioに入っていたので、なんとなくの方向性は自然と決まっていたんですけど、最初は「ブラックミュージックの中でどれをやろうか」という感じでした。5月に結成して、6月の顔見せライブではThe Main Squeeze“Dr. Funk”、Jamiroquai“Alright”、カーク・フランクリン“Love Theory”とか、色々掻い摘んでやったんですよね。そこから「スムーズジャズはちょっと違うな」「ゴスペルっぽいものはいけるな」とか、僕たちに合ってるサウンドが徐々にわかってきてR&Bの方に固まっていきました。
そこからはポンポンと進んでいったんです。顔見せライブの日、「曲作ろうぜ」って言って、ライブ後の飲み会にも行かず(笑)、継が住んでいたところで1曲作って。7月には今回のEPに入ってる“Breeze”とか3曲分のデモを作って、8月には吉祥寺WARPでライブをしてました。そんな中、9月に僕はカナダへ1年間留学に行ってしまうんですけど。

―留学することが決まっていたから、9月までにやれることをやろうとハイスピードで進めていたということ?
テヒョン:というわけでもなく。コロナ禍だったので、留学に行けるかどうかギリギリまでわからなかったんですよね。
―1年後に日本へ戻ってきて、そこからの1年間でシングル3枚とEP1枚をリリースしています。バンドとしてはかなり順調に進んでいますよね。
テヒョン:みんな頭がよくて。ちゃんと音楽するし、加えて、音楽だけに没頭してるわけじゃないし、人間関係の構築の仕方もわかってる。ちゃんと尊重するし、「こういうことを言ったら傷つくだろうな」とかを考えられる人たちだから、いくら刺されるような言葉を言われても「これには彼の意図があるんだな」って、どんな状況でもわかり合えるんです。人間的に成熟していたことも一緒に音楽を続けられている理由なのかなと思います。音楽をやってる人って不器用な人が多いけど、この子たちは、優しいのがわかる不器用さというか。
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メンバーそれぞれの音楽的ルーツと共通項
―テヒョンさん自身は、これまでどんな音楽聴いてこられたのでしょう。
テヒョン:僕は、母親と父親がクリスチャンなので、ずっと韓国人教会で育ったんです。その影響もあって、韓国とかアメリカのゴスペルをずっと聴いてました。あとはソウルとかも聴いていたし、中学校くらいからは韓国のR&Bに浸かるようになって。2014、15、16年が、今最前線にいる韓国のR&Bのアーティストたちが出てきた時期なんですけど、彼らの音源を聴きながらどんどん素養が積まれていって、そこから海外のR&Bとかも聴くようになって。高1くらいからはThe Internet、ダニエル・シーザーとか聴いてました。
日本の曲はあまり聴いてなくて。最初に「ちゃんと」聴いた日本の音楽は、藤井風さんとか。だからめちゃ最近です(笑)。カラオケで歌うためにaikoさん、平井堅さんの曲を覚えたり、学校の給食の時間にGReeeeNが流れていて歌詞を覚えたりはしましたけどね。

―今、日本にブラックミュージックをベースにしたバンドは多いですけど、ボーカリストであるテヒョンさんの身体に韓国R&Bが染み込んでいることがHALLEYのユニークさだと思うんですね。韓国R&Bやヒップホップに影響を受けている20代前半のアーティストは他にもいる中で、韓国ゴスペルがベースにあった上でR&Bを吸収しているというルートも個性的だと思いますし。ご自身としては、HALLEYでの歌唱法はどこから培ったものだと自覚していますか。
テヒョン:韓国のR&B、バラードが一番色濃いかもしれないですね。ナオル(BROWN EYED SOUL)、パク・ヒョシンとかをよく聴いてました。小さい頃はずっと、MelOn(韓国の最大音楽配信サービス)のチャートの1位から100位までをお父さんにダウンロードしてもらってウォークマンで聴いていたんですけど、その影響が大きいんじゃないかな。ゴスペルでいうとカール・フランクリン、BOYS II MENとかも聴いていたので、「韓国」と「アメリカ」という2つの国の音楽が大きいのかなと思います。
―他のメンバーのルーツはまた全然違いますか? それぞれ違うルーツがあって、それらの音が織られてHALLEYの音楽ができあがっているように感じます。
テヒョン:みんな「ブラックミュージック」という枠組みにはいるんですけど、それぞれ好きな音楽が広いですね。ベースの継もクリスチャンで、小さい頃からずっとゴスペルとかR&Bを聴いていたので僕と近くて。ドラムの直人は小学生のときに初めて聴いた盤がマイケル・ジャクソンで、ライブも録画してもらってずっと見ていたらしく。高校時代は軽音部で邦楽をやってたけど、大学に入ってゴスペルに目覚めて、今もゴスペルサークルと掛け持ちしてます。年長組――僕と継と直人が22歳なんですけど――は、結構ルーツが近いですし、ゴスペルの比重は大きいかもしれないですね。
ギターの晴は母親が香港系カナダ人で、香港で生活していて、高校入学のときに日本へ来たんですよ。最初に聴いた音楽がMETALLICAで、メタルがめっちゃ好きだったらしく、今もラウドロックとかを聴いてますね。でもフリージャズも好きって言ってたし、R&BやUKロックも聴くし、日本のインディシーンの音楽も聴くし。彼が一番、好きな音楽のレンジが広いと思います。キーボードの心はクラシック上がりで。吹奏楽でサックスも吹いていたらしいんですけど。ジャズやレアグルーヴが大好きで、最近は1980年代のソウルを聴いてるから、それが如実に表れたようなサウンドを提案してくるときがあるんですけど、「ちょっとこれはクサすぎる」とか言ったりして(笑)。
―でもその味が心さんの音色やプレイに出てますよね。ドラムのビート感でいうと、2010年代のジャズとヒップホップが接近した以降の文脈ともいえると思うので、その辺も聴いているのだろうなと。
テヒョン:めっちゃ聴いてますね。ロバート・グラスパーでドラムを叩いているジャスティン・タイソン、D’Angeloでやってるクリス・デイヴ、Questloveとか、彼もそうだし僕も聴いてます。
―EPに入っている楽曲のクレジットは作詞がテヒョンさん、作曲がHALLEYになってますが、普段はどうやって曲を作っているんですか?
テヒョン:曲によるんですけど。まず僕が叩き台を作って、そこからみんなで集まって書き上げていくことが多いですね。たとえば“Sugary”だったら、最初に僕がコード進行だけ考えて、みんなでジャムしてみて、そこから「このままだとライブ感が強いから」って編曲したり。
“Set Free”は、セクションAはドラムの直人が書いてきたリフで、そこから僕が他のリフを付け足したりメロディラインを作ったりしました。“Clear Mind”は、ギターの晴の家でギターリフから作っていたときに、急に僕が最後のCセクションのコード進行を思いついて――それもやっぱり韓国のR&Bとかスティヴィー・ワンダーの影響が強いんですけど――最後にみんなで編曲しながら作り上げましたね。