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宮藤官九郎×大友良英 『季節のない街』で描く「終わりのある非日常」

2023.8.14

#MOVIE

宮藤が関心を抱くのは「日常の中でふっと生まれる非日常」

ー楽しんで作っているのがわかるドラマでした。ここからテーマを変えて、震災についてお聞きしたいです。『あまちゃん』は2011年に東日本大震災が起きて、休業していた北三陸鉄道が復旧するまでを描いていましたよね。『季節のない街』はさらにそこから時間が経って、仮設住宅に住んでいる人たちの立ち退きを扱っています。「震災」という観点で、大友さんは本作をどう見ましたか?

大友:意外とそのことを考えなかったんです。「プロジェクトFUKUSHIMA!」で福島によく足を運ぶ僕からしたら仮設は見慣れている場所で、それがなくなってしまったことも現実に実感しているからなのか。

宮藤:僕も現場ではまったく意識しなかったです。なんだろう、原作の強さなのか。

自分のなかに、原作から離れてドラマを見てほしい気持ちもあるにはあるんです。山本周五郎さんの原作と言うと、みんな時代劇と勘違いするんだけど、物語は普遍的だし、現代の人にも共感してもらえると思ってました。でも『季節のない街』に出てくる戦後のバラックは当然もうありません。だとすれば仮設住宅の話になるかなと思いました。

それぞれの事情で住む家がなくなっちゃって、貧しい人も金持ちも、偉い人も、みんな全てを失って、一つの場所に集められた。だけど、みんなニコニコ笑いながら逞しく生きてるみたいな話だと思っていて。それを現代でやるんだったら、舞台は仮設住宅の他にないよなって思ったんです。

構想中にいろんな場所を見に行かせてもらいました。水害を受けた人たちの暮らす宮城の仮設住宅とか。郡山で訪ねたのは、震災による仮設住宅でした。実際に部屋に上がらせてもらって話をすることもあって。なかには自分流に部屋をカスタムしてる人もいて。そうした経験が今回の『季節のない街』に反映されています。

大友:ドラマの登場人物ほどではないにせよ、仮設住宅にはキャラクターの濃い人だってもちろんいます。なんとなく自分のなかで「これは誰々さんに似てるな」とか、ドラマの登場人物と被災地だけじゃないんだけど、いろんなところで知り合った人たちがリンクするところもありました。

ー本作に限らず、宮藤さんがこれまで描いてきたものの多くがあるコミュニティーを舞台にした群像劇ですよね。大友さんも「プロジェクト FUKUSHIMA!」をはじめ、コミュニティに関わる活動をずっと重ねてきて、やはりそこには共通の関心があるように思うんです。

宮藤:『いだてん』だと、関東大震災後に行われた復興運動会がまさにそうですね。みんな家がなくなっちゃったけど、昼間のうちはみんなで炊き出しをして賑やかにやっている。でもそれぞれが家に帰って夜になると、どこかから誰かの泣く声が聞こえてくるという。

東日本大震災の場合だと、それまで芸能人が来るような土地じゃなかったのに、慰問で人気アイドルがたくさん来るようになって……そのアイドルたちが帰ってしまうとすごく寂しく感じてしまうなんてこともあります。

こういう感覚って、時代に関係なくあると思うんです。そういうところを僕は描きたくなるんですよね。大友さんの「うるさいけれど何も語ってない」みたいな振り幅のある状況に関心があって、それが自分のテーマなんだと思います。日常のなかにふっと現れるお祭り的な状況とか。

ー原作や『どですかでん』と、宮藤さんの書いた『季節のない街』のもっとも大きな違いは、お別れや終わりの感覚だと思いました。原作では街もそこに住む人々もこれからもずっとあり続ける感覚が物語を覆っていますが、仮設住宅の場合は立ち退きの期限が目の前に迫っていって、いつかみんな散り散りバラバラになってしまうことが予告されている。

宮藤:仮設って、仮の場所ですからね。いずれは出ていかなきゃいけない場所としてある。

石巻の被災地を訪ねたときに印象に残っているのが、仮設では会いたくなくても人と会わなきゃいけないから仲良くしていたけど、復興住宅に移ったら付き合いがなくなってしまったというお話で。復興住宅に移った高齢の方が、自分はもうこの年齢だから新しい近所付き合いはもういいかな、とあっけらかんと言っていて、「たしかにそうだよな。関係ってなくなるもんだよな」って思いました。

自治体の人は「仮設暮らしが解消されて、みなさんお家が見つかってよかったですね」って感じで話されるんですけど、仮設住宅で意図せず始まった暮らしや付き合いも、それはそれで楽しい経験だったという人もいると思うんです。

それはいずれなくなってしまうことを前提とした楽しさかもしれないですが、だからこそドラマのなかの半助(池松壮亮が演じる主人公。語り手として仮設住宅の街を記録する役割を持っている)のような、感情の温度が低い人間も、最後は何か騒ぎを起こして、思い出というか、自分がそこにいた証を残そうとするのだろうし。エンディングを大幅に原作から変えたのはそういう理由です。

大友:池松さんの最終話のセリフ。ネタバレになるんで言えないですが、あの大騒ぎにグっときました。俺もきっと同じように思うかな。ライブでは普段から大騒ぎしてるんだけど(笑)。

宮藤:(笑)。原作や『どですかでん』から変えたところはちょこちょこあって、藤井隆さん演じる島さんの設定が、より中間管理職的な現代的なものになっているのもそう。

左から、島さん(藤井隆)と島さんのワイフ(LiLiCo)

宮藤:あらためて黒澤さんの『どですかでん』を見返すと、すごくアート作品だと感じます。監督本人にとって初のカラー作品で、道に色を塗って、家の影を墨で描いたり。僕の作品はアートではないから、人と人の関わりや、ぶつかり合いをもっと描きたいと思っちゃうんです。じつはこの人とこの人には関係性があって、それゆえに衝突したり協力したりするんだ、っていうものが現れてこないと自分の作品にはならないというか。

大友:エンディングが最高でしたし、そのあとの登場人物の顛末も最高でした。原作にはない話だけど、そこがいい。今回、劇伴を担当することになって、あらためて『どですかでん』を見返したら、まったく違う目で見ている自分がいたんですよ。大好きな映画なのに、つっこみたくなるところ沢山あるんですよねえ。

宮藤:『どですかでん』は重たい話ですからね。『季節のない街』の2話も、わずか2話目にして重たい。お母さん役の坂井真紀さんが、仲野太賀さん演じる息子のタツヤにワーっと厳しいことを言う。だけど、2話のなかでタツヤが救われないと、あまりにもかわいそうで。だから感情を強引に盛り上げるべく、ハッピーなエンディング曲を叩き込んだんです。「コメディーなんだぞ!このドラマのフォーマットはコメディーなんだ!」って。そう思っていたのに、第3話の横浜さんが、まったくそれを踏襲しない(笑)。なんか悔しくて「自分の監督回は絶対に毎回この曲を使ってやる!」と誓ったんです(笑)。

大友:ありがたいです(笑)。

『季節のない街』

2023年8月9日(水) ディズニープラス「スター」で全10話一挙独占配信
企画・監督・脚本:宮藤官九郎
監督:横浜聡子、渡辺直樹
原作:山本周五郎「季節のない街」
出演:
池松壮亮
仲野太賀
渡辺大知
三浦透子
濱田岳
増⼦直純
荒川良々
MEGUMI
高橋メアリージュン
⼜吉直樹
前田敦子
塚地武雅
YOUNG DAIS
⼤沢⼀菜
奥野瑛太
佐津川愛美
坂井真紀
片桐はいり
広岡由⾥⼦
LiLiCo
藤井隆
鶴⾒⾠吾
ベンガル
岩松了
https://disneyplus.disney.co.jp/program/kisetsunonaimachi

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