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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

バンコクのライブハウスとフェス事情。貧富の差が激しいタイならではの課題も

2023.8.8

#MUSIC

タイ・バンコクと福岡。直行便で5時間強。2023年3月に両都市から若手アーティストが参加した音楽コライトイベント『BEYONDERS』が福岡で開催されるなど、関係性を深めている福岡とタイ。この企画は、『BEYONDERS』を起点に交流を始めた2人が、音楽と最近の街の話題を交換していく対談である。

話者は日本からタイに渡り、バンド「Faustus」のドラマーとして活動しながら、dessin the world名義で日本とタイの交流活動を15年にわたって行っているGinn。そして、福岡のコレクティブBOATのメンバーであり、福岡音楽都市協議会と共にタイと福岡の音楽コライト企画『BEYONDERS』を主催した野村祥悟。大規模再開発で街が様変わりするアジアの玄関口福岡と、アートと音楽が調和する街タイ、バンコク。2つの都市を語り合う記事前編は、タイの音楽事情について。

タイと福岡。共通言語は『NARUTO』『ONE PIECE』「NewJeans」

野村:タイからKIKI、福岡からはDeep Sea Diving Clubが参加してくれた『BEYONDERS』の開催から早くも3ヶ月経ってしまいました。改めて、イベントを振り返ってみてどうですか?

Ginn:想定以上にバンド同士のグルーヴが合ったっていうのが、まず真っ先に思ったことです。結構ありがちなのが、仕掛け人同士がバンドを選んで、実際に会わせてみたら、あまり合わなかったみたいな例も聞くので。

人, 女性, 座る, 持つ が含まれている画像

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Ginn(ジン)
タイ・バンコク在住15年。タイ人メンバーと結成したポストハードコアバンド「Faustus」で自身でもタイインディーズシーンにて音楽活動をしつつ、日本とタイのインディーズシーン交流促進を目的としたレーベル「dessin the world」を主宰。「日本の音楽をタイに。タイの音楽を日本に。」をコンセプトに、タイアーティストの日本でのフィジカルリリース・ツアー・プロモーション、日本アーティストのタイでのフェスブッキング・イベント企画・現地ラジオ局やメディアへのインタビューブッキング、日本・タイアーティストによるコラボ曲制作サポート、など、多くの交流案件を手掛けている。
https://dessin-the-world.jimdosite.com/

野村:英語で流暢にコミュニケーションが取れていたわけではないですが、仲良くなるのは一瞬でしたよね。日本人とタイ人のフィーリングが割と近いのかな? っていうのも感じました。

Ginn:今年の2月、沖縄で開催されている国際音楽ショーケースフェス『Music Lane Festival Okinawa 2023』にタイのSoft Pineというバンドが出演することになり、せっかく日本にいくので東京でもライブをやりたい、ということで、東京でのライブを新代田FEVERに組んでもらいました。ayutthayaと対バンだったんですが、その2組もグルーヴが合って、超盛り上がってました(笑)。Soft Pineとayutthaya、KIKIとDeep Sea Diving Clubは良い例になったと思います。

野村:特にタイの若い子たちは、割と映画とか音楽とかアニメとか、見ているものが日本の若い子たちと一緒なんですよね。だから共通言語が多くて、打ち上げでは『NARUTO』や『ONE PIECE』のセリフで異常に盛り上がったり(笑)。

Ginn:NewJeansの歌も合唱してましたね。

キッチンで料理をしている男性たち

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『BEYONDERS』に参加したKIKIとDeep Sea Diving Clubによる楽曲制作の様子

バンコクで誕生した「日本風ライブハウス」

野村:タイのアーティストから日本ってどう見えているんでしょうか?

Ginn:さっき話に出たSoft Pineは「日本でライブをやることが一つの夢だった」と言っていたり、去年、日本でライブをしたYONLAPAもそうなんですが、日本のライブ環境やオーディエンスのライブ観賞の仕方に感銘を受けてます。タイはライブハウスがすごく少なくて、演奏ができる場所は大抵、ライブバーなんです。でもライブバーでは有名曲のカバーしかできない場合が多くて、インディーズがオリジナル曲を演奏できる場所はバンコクでも5、6ヶ所ぐらいしかないんですよ。機材も日本のライブハウスと比べると雲泥の差です。さらに、日本はオーディエンスがじっくり自分たちの演奏を聴いてくれる。そんな環境に感銘を受けているようです。

野村:日本に対してポジティブな思いを持ってくれているんですね。

文字の書かれたシャツを着た男性

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野村祥悟(のむらしょうご)
福岡のコレクティブBOATのメンバーであり、コレクティブの中核を担うバンドMADE IN HEPBURNの雑務担当。大学卒業後、23歳の頃に「LOVE FM」でアルバイトを始め、ラジオ番組の制作に携わるようになる。RKB毎日放送のラジオ番組「ドリンクバー凡人会議」や「チャートバスターズr!」を制作していく過程で出会ったアーティスト仲間のサポートをしたことをきっかけに、音楽コレクティブBOATを設立。福岡の港湾地区・那津にスタジオを構え、楽曲からデザイン、ミュージックビデオまでを一括で制作するようになる。BOATでの活動をきっかけに、SiipやAmPm、中村佳穂といったメジャーアーティストから、Deep Sea Diving Club、クレナズム、YOUNDといった福岡のアーティストのミュージックビデオ、そしてSpace Shower TVでは福岡の新鋭アーティストに迫るドキュメンタリー「FUKUOKA COLLECTIVE」を制作。2022年からはSpotifyのオフィシャルポッドキャスト番組や、ハイタイドストアと雑誌「ペーパースカイ」による番組「THINKING CLOUD」など、さまざまな音声コンテンツをディレクションしているほか、福岡音楽都市協議会のメンバーとして、イベントディレクションを担当。福岡とタイのアーティストによるコライト企画「BEYONDERS」を開催する。
https://www.instagram.com/yaungtao/

Ginn:そうですね。でも、音楽関係なしにもっと俯瞰的に見たときに、Z世代前後の世代は、韓国の文化とかエンタメとかで育ってきた世代で、そういう世代にとって日本のプレゼンスは弱くなってきています。15年前ぐらいに、タイでも少女時代や東方神起を中心に、韓流の一大ブームがあったんですよ。それで、タイで韓流に火がつくと、主要な屋外メディアを韓国観光局がジャックして。その後に韓国の食、コスメ、ファッションが入ってきて、家電が東芝、ソニー、シャープからLG、サムスンに置き換わったんですね。

野村:なるほど。

Ginn:それでも車だけは日本の牙城だったんですが、ここ数年、中国系メーカーがEV車でのタイ市場参入を強めていて。タイは排気ガスやその他の要因で空気汚染が酷くて、政府としてEV化を促進して行く中で、中国系メーカーの存在感が強くなってます。

野村:アニメはどうですか?

Ginn:アニメ、漫画は日本産がすごく強いです。最近、僕もタイの友人から『ぼっち・ざ・ろっく!』を勧められました。その友人は、日本に遊びに行った際、下北のSHELTERに聖地巡礼で行ってました。もうちょっと上の世代になると『BECK』を読んでいるので、「ライブハウス」に憧れがあるんです。

野村:へ〜!

Ginn:ちなみに、「ライブハウス」って言葉は和製英語なので、欧米では通じないんですが、タイでは「ライブハウス」っていう言葉が浸透しています。アニメや漫画の影響も、一因としてはあるんじゃないかと思います。最近、「タイで日本風のライブハウスを作ろう!」と若手が頑張って「Blueprint Livehouse」というライブハウスが誕生しました。

ステージでパフォーマンスをしている人達

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Photo by Blueprint Livehouse

屋内, 大きい, フロント, 暗い が含まれている画像

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Photo by Blueprint Livehouse

なぜ経営が続かない? バンコクのライブハウスを取り巻く事情

野村:「Blueprint Livehouse」が出来るまで、バンコクのライブハウスを取り巻く事情はどうだったんですか?

Ginn:今まで「日本風のライブハウスを作る!」と挑戦した人はいましたが、大体3年ぐらいでなくなることが多かったです。いろんな要因があるんですが、まず、そもそも毎日ライブハウスの稼働を埋められるほどバンドがいないんですよね。そうすると平日営業ができない。場所に関しても、土地のオーナーが契約更新してくれなくなったり、裏手に高級マンションが建つと警察を呼ばれることも多くなって、閉めざるを得なくなっちゃったりとか。そうすると、投資を回収する前に潰れる可能性が高くなる。「ライブハウスを作りたい。日本ではどのような仕組みで運営しているのか?」とタイの友人から相談されることもままあるのですが、実情を鑑みると、簡単に手は出せないんだと思います。

以前、「HARMONICA」というライブハウスがあったんですが、そこも3年程でなくなってしまって。ライブハウスがあった時代ごとに「このバンドはHARMONICA世代だね」とか、ライブハウスが時代を象徴する名前になるくらい希少なんですよ。

野村:出演したライブハウスの名前を出せば世代がわかるんですね。

Ginn:ですね。なので、これからはBlueprint Livehouse世代が出てくると思います。彼らは、巷に溢れるライブバーという形態ではなく、音楽を聴かせる場所として成り立たせようとしているので、なんとか長く続いてくれたらなと思ってます。

野村:ライブハウスがそれだけ少ないとなると、リハーサルスタジオはどうなんですか?

Ginn:バンコク内のリハスタでぱっと思いつくのが、4ヶ所、5ヶ所ぐらい。予約争奪戦です。これもさっきのライブハウス経営と同じで、バンドやミュージシャンの数が少ないから、リハスタも安定的な経営をするのが難しいんだろうなと思います。なんでミュージシャンが少ないかと言うと、楽器の値段が、タイの平均的な所得からすると高いんですよ。日本と同じか、日本より高いです。なのでそもそも、お金に余裕のある人しか楽器を持てないんですね。タイは貧富の差が世界トップクラスで激しいので。

野村:貧富の差が激しい場所ではヒップホップが流行するイメージもあります。今年に入って『Rolling Loud』(国際的なヒップホップフェス)が初のアジア進出ということで、タイで開催されていましたね。

Ginn:ですね! コロナ前ぐらいから、タイでもヒップホップが流行り始めました。日本でも名前が知られているMILLIが世界的に注目されて。タイからラップスターが出てきたので、シーンが盛り上がりました。さらにMILLIは、反体制的なことでも、自身の意見を物怖じせず表明するラッパーです。その昔はロックやパンクが反体制の象徴でしたが、ここタイでも、それはヒップホップに置き換わっています。

https://youtu.be/FZlBKl-spfY

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