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『ザ・フラッシュ』のマルチバース概念
『IT/イット』2部作のアンディ・ムスキエティ監督が、はじめてスーパーヒーロー映画を手がけた『ザ・フラッシ』。DCコミックスの映像作品を再編する、DCユニバース構想の序章として位置づけられる本作は、マルチバースを題材にしたことでも話題になった。
マルチバースは、宇宙を意味するユニ(=一つの)バースに対し、マルチ(=多数の)とユニバースを合成した言葉で、多元宇宙と訳される。私たちが生きるこの宇宙や世界とは別に、可能性の数だけ異なる宇宙が存在するという考え方だ。
アメコミ映画でマルチバースを初めて本格的に導入したのは、マーベル・コミックを原作とする『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)だった。画期的だったのは、その描き方だろう。異なる世界のバラエティ豊かなスパイダーマンたちを表現するために、何種類もの絵柄で書き分けた。一つの画面に異なる作風の絵が共存している、その描写は新鮮だった。
アメコミ映画以外に目を向けると、第95回アカデミー賞7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)が、異なる世界の自分に次々とリンクする世界観を提示していた。