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<新しい一日がはじまる>で終わる、『はじまりの夜』
─アートワークもとても印象的ですよね。
江﨑:佐藤裕吾さんという、同世代の素晴らしいクリエーターにアートディレクションをお願いしました。カメラを用いずに、印画紙の上に直接物を置いて感光させる「フォトグラム」という技法を用いているのですが、それを提案していただいた瞬間に「はい、最高です」と思いましたね(笑)。僕も写真が好きで、カメラも趣味で色々とやっているのですが、そもそも光を扱う芸術じゃないですか。今回のアルバムのコンセプトにぴったりだなと。マン・レイやモホリ=ナジが切り拓いていった手法というのも、個人的には嬉しかったです。

─ぼんやりと浮かぶ球体が、“きょうの空にまるい月”という曲名とシンクロしますよね。
江﨑:じつはジャケット写真にはいくつか案があったのですが、もっともポップでわかりやすいのがこの写真だったんです。おっしゃるように、夜空に浮かぶ月のようにも見えるし、徐々に登っていく……あるいは暮れていく太陽のようにも見える。見る方によって、いろんな解釈ができるところも気に入っています。
─最後の曲“朝日のぬくもり”は、木原健児さんが綴った歌詞も印象的です。<繰り返し この時間を 繰り返し この気持ちを 変わらずに毎日を感じて>と歌っていたラインが、最後に<振り返る この時間も 振り返る この気持ちも 新しい一日がはじまる>と変化するのもいいなと思っていて。繰り返される変わらない毎日は、今この瞬間にとっては<新しい一日>でもあるという。
江﨑:確かに、その塩梅はかなり絶妙ですね。曲自体もくり返しの伴奏で作っている曲なので、日常のループ感みたいなものはあるのですが。とにかく木原さんには、日常の風景だけで描いてほしいとお願いしました。メッセージとして大きすぎないというか、当たり前の日常の中にある幸せや、感情の機微みたいなものを、うまく表現していただいたと思っています。

─先ほど話したコロナ禍の比喩という意味では、この<新しい一日>はアフターコロナの新しい一日が始まるとも取れるなと。そうやって考えると『はじまりの夜』というタイトルも意味深だなって。
江﨑:確かにそういう希望の歌のようにも感じることもできますね。僕的には映画のエンドロールが流れている時の楽曲というイメージで書いたのですが、むしろ続編のオープニングにも感じられるという意味でも面白い。ちょっとこれから使わせていただきますね、それ(笑)。