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時代の推移と集団の変質にシンクロする選曲
こうした視点の存在は、全編に渡って多数敷き詰められたポップソングの選曲姿勢にもある程度通底しているように思われる。数あるトラックの中から、特に印象的な形で使用されている曲の名をいくつか書き出してみよう。
ミッキー・マレイ“Lonely Room”
ゲイリー・U.S.ボンズ“I Wanna Holler But the Town’s Too Small”
Count Five “Declaration of Independence”
The Animals “Talkin’ ’Bout You”
The Shangri-Las “Out in the Streets”
デイル・ホーキンズ “My Babe”
ビル・ジャスティス “Raunchy”
マジック・サム “That’s All I Need”
ボ・ディドリー “Road Runner”
マディ・ウォーターズ “Mannish Boy (Electric Mud Version)”
Cream “I Feel Free”
Them “Baby Please Don’t Go”
The Staple Singers “Masters of War”
The Sonics “I’m Going Home”
Brother T. and Family “Oh Love”
Pugsley Munion “I Don’t Know Who to Blame”
The Stooges “Down On the Street”
ジョニー・アダムス “I Don’t Worry Myself”
The Fleetwoods “Come Softly To Me”
ご覧の通り、ロックンロールやリズム&ブルース、ブリティッシュビート、ガレージパンク、サイケデリックロックまで多岐に渡っているが、これらのほとんどは、本作の舞台となる時代=1960年代半ばから1970年代初頭までを実際に彩った、有名・無名の楽曲である。
この時代のポップソングに明るい方なら、まずは劇中の時間の推移と並走する楽曲の変遷に心を奪われるだろう。映画の冒頭、つまり1960年代半ばの時点では、オリジナル世代のバイカーたちの嗜好やスタイルと関連付けられる形で、ロカビリーやロックンロール(デイル・ホーキンズ、ビル・ジャスティス、ゲイリー・U.S.ボンズ等)、ビートバンドやガレージ系(The Animals、Count Five等)の楽曲が多く使用される。また、シカゴを舞台にした映画であることを示唆するように、同地産のブルース系音源(マディ・ウォーターズ、ボ・ディドリー、マジック・サム)もいくつか用いられており、サブカルチャー集団のアイデンティティ形成にとってきわめて重要な意味を持つ地域性への目配せも欠かしていない。

かたや映画後半では、上述した通りの集団内外の変質を表すような選曲が多く聴かれる。Brother T. and Family やPugsley Munionといったオブスキュアなサイケデリック〜ハードロックグループの楽曲から、「新参者」たちが跋扈するいかにも不穏なシーンで使用されるThe Stooges の“Down On the Street”に至るまで、その急激なサウンドの変化が、見事に象徴的な意味を体現しているのがわかる。つまりここでは、それまでのシンプルなロックンロールと入れ替わるように1960年代後半から勃興するけたたましいハードロック〜プレパンク的なサウンドが、ビールを愛する古参世代と入れ替わって台頭するドラッグまみれのアウトサイダー達によって構成される新世代メンバーの姿を表象する存在として用いられているのだ。