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本作と共鳴する、エンドロールの見事な選曲
最後に、本作のエンドロールで流れる、同じくニューオーリンズ出身のスター、ドクター・ジョンによる名曲=“Such A Night”について触れおこう。小気味よく転がっていく自身のエレクトリックピアノにあわせて、彼はこう歌う。
こんな夜 こんな夜なんだ
月明かりの下で 甘い混乱
こんな夜 こんな夜なんだ
こっそり逃げ出すには 今が絶好のタイミング
お前の目が俺の目と合った 一目見て
今がチャンスだと教えてくれた
でも お前は俺のダチ公のジムと一緒にここに来た
そして俺は今ここで お前をヤツから奪おうとしている
ああでも 俺がやらなければ、誰かがやるだろう
(繰り返し)
こんな夜 こんな夜なんだ
こっそり逃げ出すには 今が絶好のタイミング
そう 俺は自分の耳が信じられなかった
心臓がドキドキした
お前が俺に 少し一緒に歩きに行こうと言った時
そう お前は俺のダチ公ジムと一緒にここに来た
そうさ俺だよ お前をヤツから奪い取るよ

月明かりの照る夜。ある男が、他の男を押しのけて「お前」を連れて行こうとしている。これほどまでにこの映画の締め括りにふさわしい曲があるだろうか。リンクレイターとポスターのポップミュージックへの深い見識と愛情に嬉しくなってくるが、今ここで、もう一つハッと気づいたことがある。
そもそも「ドクター・ジョン」という存在自体、ニューオーリンズでミュージシャンとして活動していたマック・レベナックという一人の男が、同時代のサイケデリックロック等の台頭に接して、19世紀に実在したブードゥー教の伝説的司祭の名を冠して作り出した一つのペルソナなのである。そう。彼もまた、司祭や田舎紳士、果てはマルディグラの衣装まで、様々な擬態を繰り広げつつ、ニューオーリンズ音楽の伝道師=ドクター・ジョンというアイデンティティを生き続けた人なのであった。いやはや、なんとも見事な選曲としかいいようがないではないか。
『ヒットマン』

2024年9月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター&グレン・パウエル
出演:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ
配給:KADOKAWA
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