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エンドロールの選曲を考える
最後に、エンドロールに流れる曲についても補足的に触れておこう。この曲“Union Maid”は、1940年に伝説的なフォークシンガーのウディ・ガスリーによって労働組合運動の促進のため書かれた曲だ。ここでは、ウディ・ガスリーと行動を共にした同じく伝説的なシンガーであるピート・シーガーの歌唱版が使用されている。
この、あからさまなまでに政治的な曲がやや唐突にエンドクレジットで流れされる理由は、二つほど考えられる。まず、(字幕には反映されていないが)本編中でエヴリンが述べているように、母とともにデモに参加した幼少期のジギーがこの曲を弾き語りしていたというエピソードを受けているというのが一つ。つまり、エヴリンとジギーが再び「同志」として家族関係を築いていく明るい未来を示唆していると思われる。
もう一つ、より一般的な理由も推察できる。元々この曲には、労働組合運動への女性の参加を促す意図とともに、(現在のジェンダー観からするといかにも男性中心主義的なラインもあるため、差し引いて考えなくてはならないが)そこで活躍する女性を称えるものにもなっている。様々なアイロニーが張り巡らされた本作だが、この選曲には、エヴリンのように社会正義実現のために日々活動する女性たちへの敬意が込められていると考えたい。

アイゼンバーグ監督の亡き義母は、エヴリンと同じくシェルターを設立・運営しており、彼自身彼女に対して深い尊敬の念を抱いていたという。また彼には、コロナ禍に際しボランティアとしてシェルターの業務に携わった経験もある。そういった意味で本作は、芸術家としての自己探求に邁進しつつも、同時に社会正義の実現へと身を挺することを厭わないアイゼンバーグ自身の二面性とその緊張関係を映し出した、すぐれて自己言及的な作品と言えるかもしれない。
『僕らの世界が交わるまで』

2024年1月19日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ
出演: ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、アリーシャ・ボーほか
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
https://culture-pub.jp/bokuranosekai/