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映画終盤、あの名曲でエモーションが噴出する!
バカンスの終わり=父子の別れが近づくにつれて、ソフィとカラムはすれ違い、重苦しい空気が流れる瞬間が訪れる。しかし、貴い時間の終焉を予感する中で、二人は再び慈しむように時を過ごす。最後の夜、カルムは恥ずかしがるソフィをダンスに誘い、二人は音楽に身を委ねる。最も心を揺さぶるこのシーンに流れるのが、QUEEN&デヴィッド・ボウイの“Under Pressure”(1981年)だ。
スローモーションで踊る1990年代の二人へ、現在のソフィとかつての父の姿が重なり、眼差しと身体が交錯していく。どんどんと音量を上げ、映画全体を包み込むような迫力でフレディー・マーキュリーとデヴィッド・ボウイの声が重なり、交錯する。過去の回想が音楽を通じて現在へと重なり、交錯し、とてつもないエモーションが噴出する。

同曲の歌詞を引こう。
この世界を知るのは 恐ろしい
よき友たちが叫ぶ “ここから出せ”
明日に祈ろう もっとよい日々を
重いプレッシャー 路頭に迷う人々世の中すべてから 目をそらし
知らん顔では 変わらない
愛を求めても 傷だらけに
なぜ?
なぜ?
どうして?愛 愛 愛
“Under Pressure”
もう一度だけ 試せないのか
もう一度だけ 愛にチャンスを
なぜ愛を与えられない
だって愛は 時代遅れの言葉だから
だけど愛は 君に勇気を与える
夜の片隅にいる人々に 想いを寄せて
愛が勇気を与え 君が変えていく
互いに思いやるように
これが最後のダンス
これが最後のダンス
これは僕たちの姿

暗転したまま、映画は再びminiDVカメラの音へと戻る。続いて、ホームビデオの中で、空港で別れを告げあうソフィとカラム。そしてまた、ストップモーション。
過去のポップミュージックが、これほどまでエモーショナルな形で映画を「つくってしまう」という事実に、改めて感動させられる。それは、監督が言う通り、本作『aftersun/アフターサン』が、「“今”を感じさせて、“過去”を描」こうとしている、ということと無関係でないだろう。映画における過去のポップミュージックは、ただそれが過去の記号として使われるだけでは、相変わらず過去に属するものとして存在し続けるだろう。しかし、今の私、今の感情へなんとかして回路を開こうとする限り、それは「今鳴っている音楽」になるのだ。
『aftersun/アフターサン』のプレイリスト
文中に登場する楽曲は、こちらからお聴きいただけます。
『aftersun/アフターサン』

2023年5月26日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほか全国公開
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
配給:ハピネットファントム・スタジオ