漫画家オカヤイヅミさんが、ゲストを自宅に招いて飲み語らう連載「うちで飲みませんか」。第2回は『凪のお暇』の作者、漫画家のコナリミサトさんにお越しいただきました。
コナリさんの仕事場のクレイジーな内装が明かされたり、リフォーム会社の営業さんに隠されたドラマを妄想してみたり……。コナリさんの奇想天外な魅力が炸裂したサシ飲みの模様をお届けします。
当日振る舞われたオカヤさんお手製「蒸し餃子」のレシピもお見逃しなく!(レシピは記事の最後にあります)
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コナリさんと飲むときって、いっつもすごく長い時間飲んでるよね
コナリ:いろいろ持ってきました! これは長野のぶどうジュースのようなビールなんですけど、めっちゃおいしいんです。あと、オカヤさんにお土産があって、AKAISHIというメーカーが出しているツボをほぐすやつなんですけど、めっちゃいいんですよ! 握ってるだけでも気持ちいいし、頬骨の下にぐいっと入れると気絶しそうなくらい気持ちいいです。あと、このグラスは栄えそうだなと思って持ってきました。これでお酒を飲みたいなと思って。ふるさと納税の返礼品なんです。

オカヤ:えっ、これふるさと納税なの? 何県……?
コナリ:長野県ですね。かわいくないですか? 今日はよろしくお願いします! あとお水用のグラスももらっていいですか?
オカヤ:すごい、2Lのお水を持参!
コナリ:そうそう。水をはさむと、長く正気のままいられることが判明して、最近飲むときはこういうスタイルになりました!

漫画家。2004年、『CUTiE』での連載『ヘチマミルク』でデビュー。2016年から『Eleganceイブ』にて連載中の『凪のお暇』で、第65回小学館漫画賞(少女向け部門)を受賞。同作は黒木華主演でテレビドラマ化もされた。その他の作品に『珈琲いかがでしょう』『宅飲み残念乙女ズ』『ひとりで飲めるもん!』などがある。
オカヤ:コナリさんと飲むときって、いっつもすごく長い時間飲んでるよね。
コナリ:オカヤさんはすごい付き合ってくれるから。最初の出会いが、池袋の西武でしたよね?
オカヤ:西武の屋上で飲んだよね。コナリさんとはよく、外とか、パブリックな場所で飲んでる気がする。コナリさんの『ひとりで飲めるもん!』はファーストフード店とかで飲む漫画だけど、ご本人もそういうのが好きな人っていう印象があります。
コナリ:(天丼チェーンの)てんやでも、シェーキーズでも飲みましたよね。「エモ酒散歩」に付き合ってもらって、水筒に赤ワインを入れて歩いたこともありましたね。
オカヤ:あと「高円寺の駅前で飲んでみたい」って言われて。
コナリ:そうそう! 鳩とか眺めながら飲みたくて。どの思い出にもオカヤさんがいる気がする。実際はいなかったところにも。
オカヤ:飲み会に必ずいそうってよく言われるよ。「あれ、あのときいなかったっけ?」って。
コナリ:わかるわかる!

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ガーシーにハマってしまった
オカヤ:でも、コロナ禍の間は、そんなに飲みにも行けなかったしね。
コナリ:そうですね。その間、私はガーシーにハマってました。
オカヤ:えっ!
コナリ:私はガーシーにハマってしまった過去を隠蔽せずに生きていこうと思ってるんですよ(笑)。オカヤさんはまったく見てなかったですか? 本当ですか?(笑)。
オカヤ:どこが良かったの?
コナリ:画面越しに情念のようなものを感じて、目が離せなくなっちゃったんです。
オカヤ:ああ。
コナリ:色々やらかしている人ではあるんですけど、例えば自分が芸能人だったとして、彼と接したら、たぶんふだんはすごく良いお兄さんなんじゃないかと思うんです。
オカヤ:そうなのかな? ちらっと見ただけではあまりそういうふうに思えなかったけど……。
コナリ:ガーシーのあとは、岡田斗司夫にもハマりました。
オカヤ:それもまた、なぜ……。
コナリ:ガーシーから芋づる式にそういう動画を見ていってしまうと、オススメに出てくるサムネイルが、黒光りしている男性ばかりになってくるんですよね。その中で岡田斗司夫さんは比較的黒くなかったので……。
オカヤ:(笑)。岡田斗司夫さんはどこにハマったの?
コナリ:『サイコパス人生相談』っていうのをやってるんですけど、それが面白いんですよ。本も出ていて、その中に人間を4つの型に分ける診断があるんですけど、それをみんなにやってほしくて、LINEで友達に送りつけてました。オカヤさんには送らなかったでしたっけ?
オカヤ:うん。
コナリ:あ、良かった。じゃあ私、理性が働いたんですね(笑)。
オカヤ:ハマるけど、すぐ冷静になるんだね。
コナリ:うん。ひろゆきの動画も見まくっていた時があったんですけど、流行ったのはよくわかりますね。必殺技っぽいというか。小学生が真似しちゃうのはよくわかる。
オカヤ:たしかに、決めゼリフというか、少年漫画みたいな感じがあるのかもね。
コナリ:そうそう。「あなたの感想ですよね」は「霊丸!」(*)ですよ。
*『幽遊白書』に登場する必殺技。

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コナリさんのクレイジーな仕事部屋
コナリ:でも今は、YouTubeのオススメにあがってくるのは、床材の動画とかばっかりですね。私、家のリフォームの準備をしていて、そのことばかり調べているので。たまに岡田斗司夫さんがカットインしてきますけどね。「ぼくのこと忘れてない?」みたいな感じで(笑)。
オカヤ:コナリさんの仕事部屋、前にお邪魔したけど、クレイジーだったよね。薬局にあるような「元気ハツラツ」とかの幟がカーテンになってて……。
コナリ:「これ、カーテンにサイズがぴったり!」って思ったんですよ(笑)。
オカヤ:あと、木でできたアルファベットの置物で「UNKO」って書いてあった。
コナリ:ああいう置物って、だいたい最初からよくわからないメッセージになってるじゃないですか。「BEAUTIFUL DREAM」とか「PRECIOUS TIME」とかって(笑)。勝手に決めるなよと思っていて。
オカヤ:それで「UNKO」(笑)。
コナリ:100円均一で売ってる小物にも、よくわからない言葉が書いてあることがありますよね。
オカヤ:あんまり簡素だと寂しいかなという、サービス精神なんだろうね。
コナリ:おめかししてくれてるんだ。でも、してくれなくていいですよね。おめかしバージョンと無地バージョンを作ってくれないかなあ。無地バージョン、めちゃくちゃ売れると思います!

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ハーバリウムは、未来の「軍手ピエロ」かもしれない
オカヤ:リノベーションは、楽しそうだよね。私は家をどうするかにはぜんぜん興味がなかったけど、最近ようやく面白いと思うようになってきた。
コナリ:最初にリノベーション会社の人から「いいですか、コナリさんは今から、72個の選択をしなくてはいけません」って言われて。もう白目ですよ。
オカヤ:大変だ!
コナリ:例えば服とか漫画なら「これは好き、これはあんまり好きじゃない」と選り好みができるじゃないですか。でも、家のことって今までぜんぜん考えていなかったので、何がオシャレとされているとか、これはちょっと古いとかが、ぜんぜんわからないんですよ。
オカヤ:今の流行りが、10年後にはどうなってるかわからないしね。
コナリ:例えばドライフラワーをぶら下げるのとか、瓶の中に花が詰まってる置き物(ハーバリウム)とか、今はオシャレとされている物が、何年後かには、おばあちゃんの家によくある軍手で作ったピエロのような扱いになってるかもしれないですよね。
オカヤ:72個の選択は、もう全部したの?
コナリ:まだ3個しか決まってない(笑)。今日もこの後、ショールームに行ってドアを選ばなくちゃいけないんです。
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日常に現れた、漫画のようなナイスキャラたち
コナリ:ところで、最近ご近所の人と話すことが増えたんです。「今日は雨が降りそうですね」みたいな話をすることって、今までなかったんで、愛おしい時間だなって思うんですよね。
オカヤ:たしかに。一人暮らしをしてると、そういう話をする機会ってあんまりないもんね。
コナリ:洗濯物を干しているおばあちゃんと、ベランダ越しに話したりするんですけど、「今は晴れてるけど、もしかして夕方から降るかもしれないわよ」と教えてくれたりして。「本当ですか、ありがとうございます」って言ったら、そのおばあちゃんが指鉄砲を作って、こっちに向けて「バン!」ってしたんですよ。
オカヤ:すごいおばあちゃんだね。漫画みたいだ。
コナリ:そう。高橋留美子先生が描くおばあちゃんっぽいんです。

コナリ:漫画みたいといえば、いまお世話になっているリノベーション会社の営業の方が、若々しい感じの女性なんですね。その会社にお願いすることに決めたときに、私が「よろしくお願いします」と言ったら、その女性がフワッと笑顔になって、上司の方とハイタッチをしたんですよ!
オカヤ:目の前で。
コナリ:はい。それで「私はこの人たちの物語に組み込まれた」って思って(笑)。いま、私はモブキャラとして、彼女の物語に登場してるんですよ。
オカヤ:ふつうは施主のほうが主人公なんじゃないの……?
コナリ:彼女はすごく一生懸命で、仕事もできて、主人公っぽいんですよ。
オカヤ:そうか。たしかに漫画家って、「これは漫画に描けるな」と思ってものを見てるから、自分を主人公に置かない感じがあるかもね。
コナリ:自分でペンキを塗った見本まで用意してくれたり、とにかくいろいろやってくれるんですけど、私、その方と、クリスマス前に一緒にモデルルームに行くことになってるんですよ! 「休日でもぜんぜん動けます!」とか言ってくれちゃうんですけど、それでもし遅くなって、彼女がクリスマスをパートナーと一緒に過ごせなくなったらどうしようって。この物語の中では、私はキムラ緑子さん演じるクレーマー役みたいになってるんですよ。
オカヤ:なんでそんな補正を……。まさかお客さんがそんなことを考えてるとは、向こうは思ってないよね。
コナリ:きっと「ごめん、今日も仕事で行けない」ってパートナーにLINEしてて、雨が超降ってるんです、私のせいで(笑)。
オカヤ:(笑)。雨はコナリさんのせいじゃないじゃん。
コナリ:そこに、Official髭男dismか、あいみょんの曲が流れて。
オカヤ:予約しているレストランで、相手が一人で待っていて。
コナリ:「そろそろ閉店になります」って言われて……。ああ、クリスマスはぜったい残業させないようにしなきゃ!
オカヤ:雨が降るかどうかは、洗濯物のおばあちゃんに聞いてみればいいんじゃない。
コナリ:ああ、「今日降るらしいわよ、バン!」って。あ、ちなみにリノベーション会社の上司の方は、ちょっとガーシーに似てるんですよ。
オカヤ:周りにいいキャラが多すぎるよ!
コナリ:あはは、楽しくなってきましたね。今日はもうドアを選びにいくのはあきらめようかな……。

コナリミサト 『凪のお暇』11

2024年2月16日(金)発売
価格:748円(税込)
A.L.C DX(秋田書店)
オカヤイヅミ『雨がしないこと』上・下

オカヤイヅミ
『雨がしないこと』上・下
2013年12月12日(火)発売
価格:各880円(税込)
ビームコミックス(KADOKAWA)
オカヤイヅミ

オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。著書に『すきまめし』『続・すきまめし』『ごはんの時間割1・2』『ものするひと1・2・3』『みつば通り商店街にて』ほか、人気作家へ理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』など。2022年『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない』の2作で第26回手塚治虫文化賞短編賞受賞。