みらんと小原晩の交換日記『窓辺に頬杖つきながら』 Vol.01
シンガーソングライター「みらん」と作家「小原晩」による交換日記がスタート。始まりは2023年2月中旬。季節はだんだん春めいてきたけれど、みらんには「なんとしてでも乗り越えたい冬」が、そして小原には「未だ乗り越えられていないもの……」があるのだった。
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fromみらん #1
晩ちゃん、こんにちは。みらんだよー
春って文字をさまざま見かけるようになった2月の中旬。春を待ってる人、春がきた人、春になったらどなたかに会いに行く人。わりかしみんな、インスタとかで素直に綴ってくれる。ちなんだ写真も添えたりして。私はなんか、かゆいかゆいで、春かー。その前に、なんとしてでも乗り越えたい冬があるなぁ私は。と、思ったり。
ほとんど毎日は、なにかと予定をこなし、お腹の上のほうで疲れてはビールを流し込んで満たしてる。
それでも昨日は好きなバンドを見に行った。家を出る前に赤ワインを一口飲んだおかげで、あっけらかんな足取りやったと思う。
ライブを見てるときは楽しくてしょうがない。楽しくて楽しくて、いろんな事を真剣に考えて、いろんな人に話したくなる。なのに実際はその全てが、笑顔となって溶けてしまう。溶かすな。溶けるな。と思いながらにこにこにこにこ。帰る頃にはもう、なんにもなくなって、お風呂に入る頃にはもう、今日はにこにこしすぎた、って省みる。人の笑顔ってほんとうに素敵だから、きっと素敵な私の笑顔も、見せすぎるのはセンスないかもなと思う。本当に見せたい人にはどうするのよって。猛省の沼にハマりかけたところで、そういえば思い出した。晩ちゃんとはじめて遊んだ夏の夜、公園で隣に座って話してたら、晩ちゃんの横顔月に照らされて、鼻がツーっと高くってびっくりしたこと。鼻が高いのはちょっと前から分かってたけど、その鼻と先の月、それからてりんってまつ毛も綺麗で、綺麗で、私は、(晩ちゃん、その横顔、誰にでも見せたらあかんよ)って強く思ったんだわ。
猛省の沼から猛月の晩へ、今はとにかく私がこんなに素直につらつらと言葉を並べれること、嬉しいな。もしかして晩ちゃん、かゆくなってたりするかな。


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from小原晩 #1
こんにちは、みらんちゃん。
こちらは3月を迎えたばかりの小原晩です。
上着をもたずに出かけたら、夕暮れどきには肌寒いよね。夜なんかはぶるぶるふるえながら家まで帰るんだけど、熱いコーヒーさえあればなんとかもちこたえられます。春は近いね。
先日みらんちゃんとこの交換日記のための写真撮影があったけれど、いい天気だったよね。シャツ1枚で歩いていても、ちっともさむくなかった。
ふわりさらりとポーズをとって、真っすぐレンズを見つめるみらんちゃんを見て、なんて絵になるひとなのだろうと、私はうっとり思いながら、こういうのって、なんで、できるひとと、できないひとがいるのだろうと考えていました。
できるひと、というのはみらんちゃんのことで、カメラの前で自由に振るまえるひと。(私にはそう見えるだけで、みらんちゃんが本当はどういうこころもちでいたのかはわからないけれど)
できないひと、というのは私のことで、カメラを前にするとがちがちになるひと。
慣れや経験の差があることはもちろんなのだけれど、でも、なんだろう、もう、そういうのだけで語れない、明確ななにかが、違う気がして、私は真っ青の空を見上げながら「あきらめよう」みたいな気持ちになって、それはどんより後ろ向きな、あきらめではなくて、車窓から偶然見えた海みたいに、明るくてさわやかな、あきらめでした。

そういう自分自身に意識 を向けすぎること自体、撮られるときにはよくないのだと、気づいてはいるのだけれど。
でも、きっといつかは、ふわりさらりとポーズをとって、真っ直ぐレンズを見つめてみたいです。
撮られているみらんちゃんは近づく春の光を浴びて、のびのび、きもちよさそうだったので。
さて、春ゆえにかゆくなっていたりするのか、という質問ですが、今のところかゆくなっていません。と書き始めたあたりで、なんだかかゆい気もしてくる、くらいの感じです。
ところで、みらんちゃんはポテトフライは細い派ですか? 太い派ですか?

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fromみらん #2
やっほー晩ちゃん。
久しぶりにすぐ眠りにつけない夜中1時。
さっき、晩ちゃんと撮影した写真が届いて、どれも良くって心躍ったからかもしれん。
ふたりと、その横を流れていく風のふんわりが感じとれる写真たち。選べないよ。宝物だ
日記に書いてくれた晩ちゃんの心中は、なんとなく捉えつつ、晩ちゃんの眩しそうな顔に高まりながら撮影進行してたよ。
できるひとと、できないひととかって、あるよなぁ。私もよく考える。
他にもこういうのって無限にあって、
帰れるひとと、帰れないひととか。泣けるひとと、泣けないひととか。なんだろうね。けど並べてみると、かわいい
そうだ、ポテト。細いポテトと、太いポテト。
どうしてこれが聞きたかったのか気になるけど。私は細いのが好きかな。こちらは芋より油を求めてるんでね。うふふ。あとは、ふにゃふにゃでもかりかりでもなく、ざっくざくのが大好物だわ。これは、誰かの何かの参考になるんかしらー。
近頃の私は、撮影やらレコーディングやら弾き語りツアーやら、前回言ってた、なんとしてでも乗り越えたい冬というのを乗り越えたので、ふと髪を切りました。
1年半くらいずっと伸ばしてた髪、このまま伸ばすつもりで、ちょっと整えてもらおうくらいの気持ちで美容院予約したんだけど、当日外に出たら陽気でたいへん気持ちよく、照らされた毛先は傷ましく。なんてゆうか、外に合う私でいたいなと思ったの。そのままの気持ちを伝えたら、はじめましての美容師さん、とってもいい具合に切ってくれた。
おかげで私は今、ロマンたっぷりぱっつりショートです。頭かるくなって、私はまたやっていけるだろうか。調子は、とことんいい。人にも恵まれてる。だけど時々、全部が全然ダメな気がする。日々はこれの繰り返しなの分かってるけどね。春の陽気は特に柔軟性と強さを兼ね揃えてるので注意! だな。
並べるとかわいかったり、比べると残酷だったり、する。あるある。寝れないけど、ねるねる。
お腹すいてきたなあ。晩ちゃんはこういう時なに食べたら満足して寝れる? それを想像しながら私はただ目を閉じます。
