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ギタリストとしての確かな力量。楽曲提供、小説の執筆まで多彩に活躍する和嶋
イロモノ的な扱いは、先述したように、鈴木によるねずみ男のコスプレが原因だったのでは、と思うが、こと音楽に限って言うならその力量と腕が確かなのは言を俟たない。例えば、おなじBlack Sabbathに影響を受けたバンドでも、CREATION(のちのBLUES CREATION)やDMBQなどと較べ、技巧面でもアイディア面でもまったく劣っていない。特に和嶋のギターの手腕は同世代のギタリストの中でも一頭地抜けており、あのCharもすごいギタリストだと絶賛している。

そうした側面がクローズアップされ、追い風が吹いてきたのは、オジー・オズボーンと彼の妻兼マネージャーが1996年に創設した、ヘヴィ・メタルの祭典、『Ozfest』の日本版『OZZFEST JAPAN』への出演が大きいだろう。Judas PriestやIron Maidenから、ももいろクローバーZも出演した同フェスで、彼らは喝采を浴びた。2013年にももクロが出演した際は、彼女らのステージでも和嶋がギターを弾いた。
他にも、声優の上坂すみれ、愛媛のローカルアイドルであるひめキュンフルーツ缶に楽曲を提供。ギタリストとしても八面六臂の活躍を見せ、2015年には、KISSとももクロのコラボレーションシングル収録曲でギターを演奏。大森靖子、ドレスコーズの音源でもギタリストとしての真価を発揮している。
2019年には結成30周年を記念して『映画 人間椅子 バンド生活三十年』も上映される。2022年には『夜の夢こそまこと』という、人間椅子の音楽を文学に昇華させた小説集が刊行され、芥川賞作家の長嶋有らが執筆を担当。劈頭を飾るのは、筋肉少女帯の大槻ケンヂによる「地獄のアロハ」。『イカ天』で名をあげたバンドマンたちが一堂に会し、渋谷公会堂で同窓会的なライブを行う話だ。作中には、池田貴族率いるremoteをはじめ、『イカ天』出身のバンドが実名で登場。和嶋も短編を提供しているが、この出来が素晴らしく驚いた。
ともあれ、彼らの奇怪で屈曲した世界像は多くのリスナーを虜にした。セールスが伴わなかった初期には、もうひとりボーカルを入れたらどうかとか、もう少し売れそうな曲を書いてみたらどうか、なんて提案もレコード会社からあったそうだが、彼らはそれをはねのけた。
和嶋は『屈折くん』で「僕らがやりたかったのは、ブラック・サバスみたいな不気味なサウンドに載せて、日本語で猟奇と怪奇と戦慄の歌を歌うことだった」と宣言している。ディレクターに問題提起をしてもらったことで、彼らは逆にバンドの原点を見つめ直すことができたのではないだろうか。