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サム・ゲンデルがレイ・ハラカミに見出したエモーション
『lust』の2度目のリイシューの際に、カルロス・ニーニョにライナーノーツの執筆を依頼した。日本でレイ・ハラカミと知り合い、その音楽に魅了されてきた彼は快諾してくれて、サム・ゲンデルと会話を交わしたことから書き始めた。冒頭を少しだけ引用しよう。
2019年の秋、サム・ゲンデルとのデュオでのジャパン・ツアーの最中に、サムがヘッドホンで何を聴いているのか尋ねると、「レイ・ハラカミの『lust』だよ」と言われた。その瞬間に、ジェシー・ピーターソンとデクスター・ストーリーと2010年にターン・オン・ザ・サンライトとしてジャパン・ツアーをした時のことを思い出した。そのツアーで、僕らはレイと京都のライヴで共演してから、2010年10月15日に東京のUnitで再びレイと共演した。このことをサムに話すと、そこからレイについて長く会話をした。
2023年に「rings」より再発されたレイ・ハラカミ『lust』収録のライナーノーツより

レイ・ハラカミの音楽は「瞑想的でありながら躍動感がある」とカルロス・ニーニョは指摘していたが、サム・ゲンデルは「エモーショナルで共感する」と述べた(※)。「そういうエモーションはあまり他のアーティストにはない」ともいう。彼らがレイ・ハラカミの音楽に感じ取ったアクティブさ(躍動感)やエモーションというものは、メディテイティブ(瞑想的)であったり、メランコリックであったりする心持ちと共に受け留められている。それが特別に感じられたのだろう。
そして、『マーキュリック・ダンス』もまさにそのことを伝えるアルバムとして存在している。従来のアンビエントや環境音楽には感じ取れない、アクティブでエモーショナルな要素が刻まれているからだ。その観点は、後のニューエイジリバイバルと日本の環境音楽の再発見にも繋がっていると思う。カルロス・ニーニョたちも、当然ながら『マーキュリック・ダンス』を発見していることだろう。
※筆者注:OTOTSU「Sam Gendel / inga 2016 インタビュー | サム・ゲンデルが結成していたトリオ、インガの時代を中心に、キャリアを振り」より(外部サイトを開く)