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『HOSONO HOUSE』という「音楽的レガシー」に未来を聴く
このようにさまざまな影響源のもとに作られた、多様なスタイルが入り混じった『HOSONO HOUSE』を原典とした『HOSONO HOUSE COVER』は、それ以上に幅広いスタイルが集っている。
前述の楽曲群で言えば“住所不定無職低収入”はmei eharaバンドによるカバーで、原曲の粘ったリズムをDAWで整理したかのように、スクウェアでモダンなファンクに。
ジェリー・ペイパーによる“薔薇と野獣”はチルウェイヴ / ヴェイパーウェイヴ以降のベッドルームミュージックの感性で、元祖「宅録音楽」としての『HOSONO HOUSE』を逆照射する。
フランク・オーシャンやハリー・スタイルからも信頼される気鋭のキーボーディストであるジョン・キャロル・カービィの“福は内 鬼は外”は、水原姉妹のヘーシ(「イーヤーサーサー」のかけ声)も飛び出す21世紀のソイソースミュージックへ。
そして世代は違えど、古くから細野晴臣という人物を深く知る矢野顕子とTOWA TEIによる“ろっかばいまいべいびい”“相合傘”は、いずれも「ピアノ弾き語り」「コラージュ / サンプリング」という、最も当人らしいストレートな表現手法を選んでいる点も興味深い。
自分自身が作ったオリジナルな音楽だと思ったものも、似たようなメロディーなりリズムなりは、既に民族音楽や古典の中に存在している。だからといって「新しいものなど、もう作る余地は残っていない」と絶望する必要はない。ものを作るということは、過去から伝承されたものに敬意を払いつつ、そこに自分のサインを加えた後、それをまた次の世代に受け渡すことである……細野晴臣は、音楽のオリジナリティーについて、度々このように語っている。
折衷的な『HOSONO HOUSE』が、時代と国境を越えて、さらに折衷的で多様な音楽の入口となるであろう『HOSONO HOUSE COVER』を生み出した。両者を聴き比べれば、耳に優しいメロディーと陽気なリズムの向こう側に、広くて深い音楽的スペクタクルが、確かに存在していることが、感じられるのではないだろうか。

▼参考文献
細野晴臣『アンビエント・ドライヴァー』(文庫版は2016年、筑摩書房)
細野晴臣、鈴木惣一朗『細野晴臣分福茶釜』(文庫版は2011年、平凡社)
鈴木惣一朗『細野晴臣 とまっていた時計がまたうごきはじめた』(2014年、平凡社)
北中正和『細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING』(2005年、平凡社)
門間雄介『細野晴臣と彼らの時代』(2020年、文藝春秋)
『HOSONO HOUSE COVERS』(LP)

2024年11月6日(水)発売
価格:5,500円(税込)
HHKB-001
[SIDE A]
1.相合傘 / TOWA TEI
2.福は内 鬼は外 / John Carroll Kirby feat. The Mizuhara Sisters
3.住所不定無職低収入 / mei ehara
4.CHOO CHOO ガタゴト / くくく(原田郁子&角銅真実)
5.冬越え / 安部勇磨
6.僕は一寸 / Mac DeMarco
[SIDE B]
1.恋は桃色 / Sam Gendel
2.終りの季節 / rei harakami
3.薔薇と野獣 / Cornelius
4.パーティー / SE SO NEON
5.ろっかばいまいべいびい / 矢野顕子
https://hosonohouse.lnk.to/COVERS
https://hosonohouse-cover.com/