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短期連載:『HOSONO HOUSE』再訪

『HOSONO HOUSE COVERS』解題。細野晴臣の過去・現在・未来を照射するカバー集

2025.1.29

#MUSIC

『HOSONO HOUSE』の源流。失われつつあった「風街」、狭山「アメリカ村」での制作

例えば“住所不定無職低収入”では、Dr. Johnに代表される陽気なニューオリンズのファンク。“ろっかばいまいべいびい”では1930年代のポピュラー音楽やハリウッド音楽に対する追憶。“相合傘”のファンクネスや“薔薇と野獣”“福は内 鬼は外”における16ビートとローズピアノは、Sly & The Family Stoneやビリー・プレストンに代表される同時代のファンクやR&Bの影響も大きい。

細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲
細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲

いずれの曲にも当てはまるが、低音のボーカルについてはジェイムス・テイラーの歌い方を意識していたことを、細野は度々公言している。ヴァン・ダイク・パークスやLittle Feat、The Band、Buffalo Springfield、Moby Grapeといった同時代のアメリカのロックもまた、はっぴいえんど時代から常に、細野に影響を与え続けている存在だ。

はっぴいえんど『HAPPY END』(1973年)収録曲。同曲のアレンジは、アメリカでのアルバムレコーディングの際にスタジオに現れたヴァン・ダイク・パークスによって手がけられている

また『HOSONO HOUSE』が埼玉県狭山市の住宅地、通称「アメリカ村」の細野の自宅(当時)で録音されたのは有名な話だが、そのロケーションも、重要な影響源となっている。ジョンソン基地を中心とする、米軍将校たちのかつての居住地は、格安の市営物件となり、異国の文化に憧れる日本人が集っていた。

その中には吉田美奈子、小坂忠、岡田徹(ムーンライダーズ)といったミュージシャンをはじめ、WORK SHOP MU!!(奥村靫正や立花ハジメが所属したデザインチーム)が事務所を構えるなど、クリエイティブな才能を持った若者たちも含まれる。

公害、オイルショック、経済成長の停滞……「風街」(※)がいよいよ完全に失われはじめた波乱の1970年代の東京を抜け出し、朝から晩までアーティスト仲間と米軍ハウスで過ごす日々。『HOSONO HOUSE』の時代から浮遊したムードは、この特殊な制作環境が大きいだろう。

※編注:「風街」は、はっぴいえんどのドラムで、同バンドの多くの詞を手がけた松本隆が青春時代を過ごした青山・渋谷・麻布界隈の原風景のことを指しているとされる。松本は自ら描こうとした「風街」について、以下のように説明する。「ぼくは現在見慣れてしまった霞町の街景に、幼年時代の異邦の感じ、つまり見知らぬ街を視ようとしたし、逆に今では見知らぬ風景と化した青山に見慣れた風景を幻視しようとした。そしてその逆説的な二つの試みが、丁度交錯する点、それを希求し、描こうとしたのだ」——『風街詩人』(1986年、新潮社)収録「なぜ「風街」なのか」より

細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲
細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録曲
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