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自分の気持ちと、他者への態度のズレ。自分の内側とどう向き合うか
―たしかにカナは自身のズレについて、コントロールの困難さを抱えているように見受けられました。それは、カナのつんのめるような歩き方からも伝わってきます。
山中:若いときはエネルギーを持て余しているというのもあると思います。体力はあるのにコントロールできないし、その使い方の意思もまだはっきりとしていない。それもあって、「手足の長さを余らせるような動きを感じたい」と思ってカナの動きを演出していました。
また外での振る舞いと本心のズレみたいな側面は、ホンダ(寛一郎)にも言えることです。50代以上の方はこのホンダというキャラクターには衝撃を受ける人も多いんですよ。「何、あの男性像?」みたいな感想もあって。カナに対する接し方が、もしかしたらひ弱に見えるのかもしれないですね。

山中:でもホンダはカナとの関係性の中だからこそあのようなキャラクターであるだけで、会社とかではホモソーシャルな振る舞いをすることはあると思うんです。どっちが本当のホンダ、みたいな話でもなく、誰しもそういうものですよね。
ーそうしたズレに対して、先ほどおっしゃっていたような社会の理不尽さとともに、今作では「自分を見つめ直す」という側面も描かれていましたね。
山中:そうですね、それは自分自身の経験も影響しています。劇中で描かれるカウンセリングシーンでも「思考のクセ」みたいな言い方をして説明していたんですけど、私自身にも「思考のクセ」を持つ傾向があるなというのに20代後半に入って気づいたんです。
そのクセを自覚するようになったら、良い方向に物事が運ぶことも増えました。例えば「この人はこう言っているけれど裏できっとこういうことを考えているはずだから」ということを先回りして予測して振る舞ってしまうクセがあるんですけど、「他人の本心なんて絶対にわからないから、エネルギーを言外に割かないほうがいいですよ」みたいなことを教えてもらったんです。そこを意識して気をつけたら、それから人ととっても話しやすくなったし、疲れなくなりました。

―予測する相手の思考に合わせてどう振る舞うかよりも、自分の気持ちを素直に表せるようになったということですね。
山中:そうですね。自分の考え方を変えてみるのは大いにアリだなと思いました。ただし「世の中がおかしいからといって批判ばかりするのではなくて、自分を変えよう」という言説は嫌いです。むしろ自分のそうした思考のクセも、おそらく世の中の理不尽さによって培われてきた側面はあると思っています。
―山中さん自身、苦しんだ経験があるからこそ、観客にも訴えかけるものになっているのかもしれませんね。
山中:最近は当時を引いた目で見ることができるようになったおかげで、この作品に取り組めました。作りながら理解していくことも多かったですし、苦しんでいる渦中にいるときには、完成できなかったと思います。

『ナミビアの砂漠』

2024年9月6日(金)公開
監督・脚本:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島空、堀部圭亮、渡辺真起子
プロデューサー:小西啓介、小川真司、山田真史、鈴木徳至
制作プロダクション:ブリッジヘッド コギトワークス
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
製作:『ナミビアの砂漠』製作委員会
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
公式サイト:happinet-phantom.com/namibia-movie
公式X(旧Twitter):@namibia_movie