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「本当の気持ちと向き合う余裕がなかった」。20代の監督を追い込んだ情報過多社会
―前半は身勝手とも言える自由奔放なカナの姿が見られますが、途中からカナのメンタルが混乱していきますね。メンタルヘルスの問題を扱った作品のようにも見られますが……。
山中:カナは明確にメンタルヘルスに不調を抱えた設定として書いてはいないんですよね。中島歩さん演じる医師もはっきりと診断していませんし。カナを21歳という設定にしたんですけど、そのくらいの年齢のときの、気持ちと振る舞いのあいだで生じるズレを描こうと考えていました。ただ、当時の自分のことは思い出せても、20代後半になった私はすでに今の年下の人たちが何を考えているかわかんないんですよ。だから年下のスタッフとか、河合さんにもいっぱい話を聞きました。
そうしたら、みんな私のとき以上に諦め前提で生きている感じがするんです。生まれたときから不景気で、夢や目標があることすら恵まれているというか、「がんばっても仕方ない」という諦念がすごく伝わってくる。

―未来に希望が持てなくなっているんでしょうね。
山中:そりゃあこんな感じの世界で生きていたらそうなるよなとも思うんです。わざわざ言わなくても、日本が終わっていってるムードは誰にもわかると思うんですよ。日本だけじゃなく。そうした中で、20歳前後で急に社会に放り出されて、すさまじい情報量と物質量に溢れた世界で毎日、自分の責任で何かを選び取らないといけない。
かつての自分を思い返してみても、生活や生きることって選択の連続だけど、いちいち考えて躓(つまず)きたくないからただ「こなす」ようになり、それが積み重なって、本当に好きなものがわからなくなってしまうということがありました。その後コロナ禍で何もしなくていい時間が増えたときに、何をしたらいいのかわからなくなってしまった。

山中:「考えるのを放棄してきちんと向き合ってこなかったツケが回ってきたから、何もわからなくなっていたんだ」と振り返って思います。自分の本当に感じている気持ちと律儀に向き合うのは疲れるから、後回しにしがちなんですよね。時間が経つと「あのとき、あれは嫌だったな」とか思い返せるんですけど、その瞬間はうやむやにしちゃうことってあるんじゃないかなと思うんです。本音と、対外的に振る舞わなければいけない自分の身体のあいだに、矛盾が生じてズレが生まれると思うんです。今作ではそれを描きたいと思って。