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夜ドラ『バニラな毎日』が関西のおばちゃんマインドでエンパワメントするもの

2025.3.11

#MOVIE

©NHK
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風変わりなお菓子教室を舞台にしたスイーツ・ヒューマンドラマ『バニラな毎日』(NHK総合)がいよいよ最終回を迎える。

美味しそうなスイーツが、毎週月曜から木曜の夜の癒しともなっていた本作。

店主兼パティシエの白井葵(蓮佛美沙子)と料理研究家・佐渡谷真奈美(永作博美)が営む“たった一人のためのお菓子教室”は、実はカウンセリング患者のための「サード・プレイス」であったが、本作が、自分にとっての心のサード・プレイスになった人も少なくないだろう。

そんな『バニラな毎日』のこれまでについて、主人公のひとりである佐渡谷の「関西のおばちゃんマインド」にフォーカスしながら、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

今こそ私たちに必要な“関西のおばちゃんマインド”

白井葵(蓮佛美沙子)の前に台風のごとく現れたおばちゃん・佐渡谷真奈美(永作博美)©NHK
白井葵(蓮佛美沙子)の前に台風のごとく現れたおばちゃん・佐渡谷真奈美(永作博美)©NHK

平成生まれの主人公・結(橋本環奈)が、日本の朝をギャルマインドで「アゲ〜!」する朝ドラ『おむすび』(NHK総合)が放送されている今こそ注目すべきは“関西のおばちゃん”ではないだろうか。対人関係が希薄になりがちな時代だからこそ、なりふり構わず介入してくる“関西のおばちゃんマインド”が、私たちには必要なのではないか。夜ドラ『バニラな毎日』にて、台風のごとく現れたおばちゃん・佐渡谷真奈美(永作博美)がどんどん周りをエンパワメントする姿に、そんなことを思った。

ハッピーエンドに一歩ずつ近づいていく葵たちの物語

白井葵と佐渡谷真奈美が営む“たった一人のためのお菓子教室”©NHK
白井葵と佐渡谷真奈美が営む“たった一人のためのお菓子教室”©NHK

いよいよ最終週に入った『バニラな毎日』は、大阪の小さな洋菓子店「パティスリー・ベル・ブランシュ」で開かれる“たった一人のためのお菓子教室”を描くドラマだ。料理研究家・佐渡谷の強引さに負け、店主兼パティシエの白井葵(蓮佛美沙子)は、しぶしぶ手伝うはめになるが、そんな不思議なお菓子教室の正体は、カウンセリング患者のための「サード・プレイス」、家庭でも職場でも学校でもない“第三の場所”だった。教室で作られるタルトタタン、オペラ、モンブラン・フロマージュ、イートンメス、パウンドケーキ、フレジエーーテレビ越しに香りまでしてくるような色とりどりのお菓子たちも、本作の主役の一人だ。

『バニラな毎日』は賀十つばさの同名小説を原作とし、『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)やNHKスペシャル『アナウンサーたちの戦争』などの倉光泰子が脚本を担当している。夜にひっそりと放送されているが、『おかえりモネ』(NHK総合)の一木正恵や『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の安達もじりらが演出を手がける意欲作でもある。そして、蓮佛美沙子と永作博美をはじめとするキャストたちの芝居がとにかく素晴らしく、毎話15分とは思えないほどの見応えがあるのだ。

そんな『バニラな毎日』がもうすぐ最終回を迎えてしまうのは、ただただ寂しい。しかしそれは、葵たちの物語が、ハッピーエンドに一歩ずつ近づいていることも意味しているのだろう。

『半径5メートル』での“オバハンライター”から“関西のおばちゃん”への変化

自他共に認める“関西のおばちゃん”こと佐渡谷真奈美©NHK
自他共に認める“関西のおばちゃん”こと佐渡谷真奈美©NHK

経営難で店を畳み、昼も夜もアルバイトに明け暮れていた葵。たった一人の生徒のためだけに開かれたお菓子教室は、いつしか彼女にとってもサード・プレイスになっていた。店を明け渡す決意をしていたものの、葵はベル・ブランシュを立ち上げた当初の目的を思い出す。自分のベストだと思うお菓子を、自分の手で作って、自分の手でお客さんに渡す。それこそが、本当にやりたかったことなのだと。お菓子教室の生徒であり、外資系企業のコンサルタントとして働く順子(土居志央梨)のアドバイスを受け、新生「パティスリー・ベル・ブランシュ」は、週2日の洋菓子店営業とお菓子教室運営のハイブリッド業態へと生まれ変わる。

本作を牽引する頼もしい存在といえば、自他共に認める“関西のおばちゃん”こと佐渡谷真奈美だが、佐渡谷役の永作は、2021年に放送された『半径5メートル』(NHK総合)でも、悩める子羊をグングンと引っ張る“おばちゃん”を演じたことがある。それが、女性週刊誌『女性ライフ』の名物「さすらいのオバハンライター」こと亀山宝子だ。彼女は、芸能スクープ班から生活情報班へと異動させられた若い記者・風未香(芳根京子)の背中を押すキャラクターだった。初対面でも心を許してしまうような親しみやすさを滲ませつつ、他人とは違う独自の目線で世の中を見据える。朗らかな雰囲気の中で、時折、ドキッとさせる一言で核心をつく。それが、永作が演じた亀山宝子だった。

葵に母のような眼差しを向ける佐渡谷真奈美©NHK
葵に母のような眼差しを向ける佐渡谷真奈美©NHK

一方の佐渡谷真奈美は、温かく包み込んでくれる母のような存在であり、目があったらニコッと手を振りながら駆け寄ってくる近所のおばちゃんのような存在でもあり、背中を追いかけたくなるような職場の先輩のような存在でもある。叫びながら現れた初登場シーンにはギョッとしたものの、回を重ねるごとに、ざっくばらんな彼女の中にある繊細さも見ることができるようになってきた。

ベル・ブランシュを居抜きで借りる人が見つかり、葵からお菓子教室がつづけられないことを告げられたときに佐渡谷が返した第一声は「でも、良かった。ね!白井さんの人生良くなってきた!」だった。舞い降りてきたバイト先での正社員の誘いを断り、もう一度、ベル・ブランシュを復活させようと意気込む葵の想いを聞いたときも、最初の一言は「あなたらしい」だった。また頑張りすぎて潰れてしまうんじゃないかと言いたくなる気持ちをグッと堪えて、ちょっと俯瞰したところから、やわらかい言葉をかける。軽やかな佐渡谷の姿はいつか私が憧れた「なりたい大人」そのものだ。

誰とでも仲良くなれるような気さくさがありつつも、料理研究家としての腕は随一。なによりも作り手に対してリスペクトがあるからこそ、頑なだった葵の心をも掴んだ。佐渡谷が授けてくれた数々の言葉を胸に、葵は本当に自分が進みたかった道へと走り出したのだ。

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