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『つくるよろこび 生きるためのDIY』展で見えた、生き方に希望を見出すDIYの精神

2025.8.12

#ART

DIYで美術を「軽く」する

第三章の後半は、脳がホッとゆるむような一角だ。5人目のアーティスト・久村卓の作品にふれた率直な感想は「面白い、やられた!」である。自身のヘルニア発症をきっかけに、いかに長く楽しく作り続けるか、心身ともに「軽さ」を重視した制作を模索するようになったという久村。手芸やDIY的な、いわゆる「アート」とは呼ばれない手法を使って、従来の美術制度の枠組みを問い直すようなエッジの立った作品を制作している。

久村卓『PLUS_Ralph Lauren_yellow striped shirt』

久村がつくるのは絵画や彫刻ではなく、台座や額縁、展示空間といった、作品を成立させる構造的な要素そのものだ。

例えばこの作品では、ラルフローレンのシャツのロゴ部分に、①刺繍で台座を付け加える→②木で絵画風の額縁を付け加える→③木材で芯を入れ、トルソ風に塑像台に載せる→④さらに廃材を使って階段状の台座を組み上げる、という合計4層ものレイヤーを重ねることで、お馴染みのラルフローレンのロゴマークを立派な「彫刻」に仕立て上げている。作家曰く、「ここは美術館だから4重くらいにしておこうかなと思って」とのこと。確かに、古着のシャツが美術館の中でも教養と伝統の圧に負けずに存在するには、これくらいの装置が必要かもしれない。逆を言うなら、お膳立てさえあればそれは何であれ展示空間に存在することを許されるのだろうか。

久村卓『PLUS__JUBILEE’s dust cloth2』

こちらは小さな「抽象絵画シリーズ」の一作。なかなかキレイな抽象絵画だ……と思ったら、実は雑巾である。パネルの裏側に回ると、魔法が解けたように「THE・雑巾」がそこにぶら下がっている。雑巾にホワイトキューブの背景+鑑賞用ベンチ+木製の額縁を付加することで、汚れが抽象絵画に仕立てられているのである。確かにキャンバスも雑巾も同じ、絵の具のついた布だけれども。感覚のひっくり返りが痛快で、自戒のため自宅に飾りたいと強く思った作品だ。

久村卓『織物BAR at東京都美術館』。ちなみに手前のブルーの椅子が、カーテンを使用した「スペシャルシート」

会期中の毎週金曜日には、展示室内で「織物BAR」(※事前予約制)が開催される。バーで好きなカクテルを注文するように、ここで来場者は好きな横糸を選んで自由に織物を楽しむことができる。といっても、ワークショップではないので実際に織物をするかは自由。美術館のベンチと同じで、長く滞在するための居場所、コミュニケーションの場だと考えるのがいいだろう。ちなみに多様な横糸のラインナップの中には、東京都美術館の過去の展覧会で使われたカーテンを裂いたものまであるそう。

解説に立った久村は、アカデミックな美術界から距離を取って手芸・DIY的な手法に辿り着き、「精神的に生きやすくなった」と語っていた。厳格な枠に囚われるのではなく、自分で自分なりにやる。DIYマインドには、前章で見たような災害での喪失、物質的な困窮とはまた違った、自分個人の精神的な危機・精神的な貧困から抜け出すための生存戦略という側面もあるのかもしれない。

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