INDEX
展示室に再現された創造のプロセス。モノをつくる行為に思いを馳せる展示

第三章「DIYでつくる、かたちとかかわり」では、謎の巨大装置が来場者を待っている。ロンドンを拠点とするアーティストユニット、ダンヒル&オブライエンによる『またいろは』だ。この作品は単純なインスタレーションではなく、「何かに心を動かされ、それを自分の手で作品として昇華する」というプロセスそのものを可視化するものだ。木材で組み上げられた空間は、ダンヒル&オブライエンの彫刻スタジオの実寸サイズに相当する。つまりアーティストのものづくり空間が、丸ごと展示室内に再現された状態なのだ。

東京都美術館の屋外に展示されている最上壽之の彫刻作品『イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ……ン』に深い感銘を受けたダンヒル&オブライエンは、まず『とある彫刻について』と題した散文詩を創作した。友人やワークショップ参加者100人が、その詩を元に粘土作品を制作した。言葉をかたちにしようと試みたのだ。さらに、完成したおよそ100体の粘土彫刻はデータ化され、乱数ジェネレーターによってひとつのかたちへと融合された。ダンヒル&オブライエンはこの融合体を「マッシュアップ」(※)と表現している。
※複数の異なる要素を組み合わせて、新しいものを作り出すこと

生み出された「マッシュアップ」が、写真奥に写っている小型の彫刻である。その「マッシュアップ」を『19世紀式の3Dパンタグラフ(※)』という装置によって、最上の『イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ……ン』と同じ大きさに拡大したものが、写真手前の造形物だ。
※パンタグラフ…原図を縮小・拡大する製図用具
これらの工程すべてを含んだ作品の正式名称は『「イロハ」を鑑賞するための手段と装置』。原題は「Method and Apparatus to Appreciate Iroha」で、その頭文字をとって「MATA IROHA」となる。この略称には、「再びいろは(基本)に立ち返る」という意味も込められているという。彼らが感動とリスペクトを表現するために実践した、一連の取り組みこそが作品なのだ。正直に言って難解だと感じた作品だが、会場ではこの隕石のような彫刻を単体で見つめるのではなく、ぜひその背景にある物語や工程を踏まえて「モノをつくる」という行為そのものに思いを馳せてみてほしい。