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クラシカルな大作形式と革新的演出が織りなす映画体験
製作費わずか1000万ドル、撮影期間33日で作られた『ブルータリスト』はフィルム撮影、章仕立ての構成、前後編各100分の間に設けられた15分のインターミッションという、クラシカルなまでの大作映画の形式が取られている。
これだけなら懐古主義のシネフィル監督と受け取られかねないところだが、『ブルータリスト』で発揮されているのは3時間35分の隅々に至るまで施されたコーベットの演出力、映画全体へのデザイン力だ。オープニングクレジットは画面下を右から左へ向けて流れ、全編に渡ってダニエル・ブルンバーグ(元ケイジャン・ダンス・パーティーのフロントマン)による音楽がジャンルを横断して響き渡る。湧き出るようなストーリーテリングは長尺を飽きさせることなく、物語に身を任せる快感に満ちている。暗闇に身を潜め、没入し、長きに渡る劇中時間を体感することは大作映画の楽しみの1つだ。

コーベットはアカデミー賞で監督賞のみならず、オリジナル脚本賞にもノミネートされている。共作のモナ・ファストボルドはコーベット作品の常連俳優にして、実生活のパートナーでもある。彼女も2020年に『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』で監督デビューし、この映画でコンポーザーを務めていたのがダニエル・ブルンバーグだった。日本では劇場未公開に終わったものの、19世紀アメリカの寒村を舞台に女たちの秘めたる想いを描いたクィアドラマの秀作である。