忙しなく日々を過ごしているなかでの休日。つい家でのんびりしたくなるけれど、たまには思い切って、いつもより少しだけ足を伸ばしてみることで、心や身体を解き放つことができるかもしれない。
都心から電車などを利用して、およそ2時間。アーティストのxiangyuさんが、東京都内でありながら、豊かな自然をたたえる多摩の檜原村(ひのはらむら)を訪れた。
「肩の力を抜くことが苦手」というxiangyuさん。日常のふとした場面にフォーカスを当てた歌が多いxiangyuさんにとって、何気ない日々を新鮮にまなざし続けるためにも、旅に出ることは欠かせないのだそう。自然のある場所を愛するxiangyuさんと、山々に囲まれた檜原村で、清々しい空気のなか1日リトリートしながら、自分を労わるリフレッシュ方法を聞いた。
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2018年9月からライブ活動を開始したソロアーティスト。2019年5月に初EP『はじめての○○図鑑』をリリース。2023年11月には、Gimgigamをサウンドプロデュースに迎えてアマピアノやゴムなどのジャンルを取り入れたEP『OTO-SHIMONO』を発表。音楽以外にも、ファッション、アート、映画出演、執筆など多方面で活動の幅を広げ、2022年には映画『ほとぼりメルトサウンズ』で主演と主題歌を担当し、初の書籍となる『ときどき寿』を出版。2025年4月に1stアルバム『遠慮のかたまり』をリリースした。
リトリート旅の始まりは、JR武蔵五日市駅を起点に

新宿駅・渋谷駅からおよそ1時間で行けるJRの武蔵五日市駅を起点に、檜原村を巡るリトリート旅がスタート。都心から近いからこそ、かえって多摩エリアは通り過ぎてしまっていたというxiangyuさん。登山が趣味であるため、これまでも多摩エリアに興味はあったのだそう。
「1日や2日休みがあって、行ける体力だなあと思ったら、ふらっと山に行くんです。山は電波も入らないし、なかなか自分の思い通りにならないところが気に入っています。多摩には、登山に向いた山が結構ありますよね。いつもはもう少し遠くの方の山まで足を伸ばすことが多くて、なかなか来れなかったので、今日はすごく楽しみでした」
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九頭龍の滝で滝行体験。「何かを考える余裕がなくて、すごい体験でした!」
武蔵五日市駅から車でしばらく山道を登り到着したのは、九頭龍(くずりゅう)の滝。こちらでは、信仰にかかわらず、年間を通して誰でも滝行を体験することができる。
まずは、あたりの土地を司る九頭龍神社に、安全に滝行を行えるようお参りをすませ、滝行用の行衣に着替えてから、滝までの未舗装の道を、足元に気をつけながら進む。



実は以前に一度、別の場所で滝行を経験したことがあるというxiangyuさん。それでも滝に近づくにつれ、「ワクワクよりも怖いかも」と少しだけ緊張した面持ちを見せる。
滝に到着すると、木々に囲まれた非日常的な空気が漂う。住職さんに案内されながら滝へ挨拶をして、準備運動をしてからゆっくりと水の中に。取材は7月上旬だったものの、それでも身体を水に沈めた段階で「冷たい!」と叫ぶxiangyuさん。


作法を教えてもらいながら、いざ滝へ。落差、約10m。激しく水しぶきをあげる滝に、住職さんの手を借りながら3度出入りを行うと、出てきた途端、大声をあげながら思わず笑ってしまっていた。


「前に体験したときは、もうちょっと緩い滝だったんですよ。ここは勢いがすごくてしっかり刺激がありました。滝の中で言葉を唱えるんですけど、心の中で言えばよかったのに、口に出して言おうとしたから、息ができなくなっちゃって(笑)。頭上から降ってくる水の中にいるのが必死で、何かを考える余裕がなくて、すごい体験でした! でも楽しかったから、またやってみたいです」

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温泉に入ってリトリート。「滝行をやって、お風呂に入って、これが“ととのう”かあ、という気分」
滝行のあとは、九頭龍の滝のほど近くにある日帰り温泉施設、檜原温泉センター数馬の湯へ。

地元の方も観光客も訪れる数馬の湯は、ぬるぬるした湯ざわりが特徴のアルカリ性単純温泉。浴槽の一部には檜原村のヒノキの丸太が浮かべられていて、ゆったりとお湯に浸かりながらヒノキの香りを楽しむことができる。
ここで使用されたヒノキは、冬は併設するレストランの薪ストーブの燃料になるのだそう。レストランでは、地元の名産である舞茸やじゃがいも、ルバーブなどを使ったメニューが提供されている。


森で暮らすヤマネが来たことがあるというほど豊かな自然の中にあり、緑を眺めながら入ることができる露天風呂は、夏場はぬるめの30度に設定されている。


普段から温泉や銭湯にはよく行くというxiangyuさん。
「町の銭湯にも、ちょっと遠くの温泉にも行きます。山に登った帰りに行くことも多いですね。滝行のあとで身体が冷えていたんですけど、熱すぎず、心地よい温度ですごくリラックスできました。露天風呂が自然の中にあるのも気持ちよかったです。滝行をやって、お風呂に入って、これが“ととのう”かあ、という気分です」
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昼食には、地元食材を使ったプレートを「いただきます」
お風呂で身体がゆるまったところで、お昼時に向かったのは、レストラン、サウナ、宿泊可能なコテージなどを備えた複合施設、たなごころVillage。

見事に咲いた紫陽花に迎えられ、爽やかな風を感じながら川辺の方まで坂道を下っていくと、「夏休みみたい! ひさしぶりに風が気持ちいいって思ったかも」と、開放的な雰囲気にxiangyuさんが歓声を上げる。



愛犬と共に食事や宿泊が可能なため、犬を連れている人に思わず話しかけたりしながら、少しの間、川辺でリラックスしたあとは、たなごころVillage内の「まい酵母パンとPIZZAたなごころ」で昼食を。


たなごころVillageの農園で収穫した旬の野菜や、地元の豆腐屋さんの豆腐を使った塩麹豆腐、自家製のパンなどによる「たなごころプレート」は、動物性の食材が使われていないことが特徴。



「味がしっかりしているのに優しくて、絶対に胃もたれしなさそう(笑)。お豆腐がチーズみたいに濃厚で、このプレートの中で一番好きです。デザートのアイスも、アイスというより生のブルーベリーをそのまま食べてる感じで、すごく美味しい」
食にまつわる楽曲が多いxiangyuさん。ライブで力を発揮するためにも、普段からこうしてきちんと食事をとることを大切にしているという。
「やっぱり“ノー・フード、ノー・ライフ”ですから。忙しすぎて日常的にきちんと食事をとれていないと気持ちが落ち込むし、大体のことって食べて寝ればなんとかなるじゃないですか。だから、こんなふうに食べることと、睡眠を取ることは日頃から大事にしています」