京都の2人組・Summer Whales。グランジやポストパンクなどからの影響を感じさせながら、それをリアルな自分たちの皮膚感覚へと落とし込み、表現する、新世代のロックバンドである。クールで芯の強さを感じさせるギターボーカル&コンポーザーの葵は作品によっては自らミックスやマスタリングまで手掛け、寡黙なギタリストの久保遼河は、スタッフの談によれば浅井健一の影響で渋いバイクに乗っているという。絶妙なバランスの2人は共通して「ロック」という音楽に強烈な思い入れを持っており、それが今のSummer Whalesの屹立した個性になっているようだ。
そんな彼女たちが、7月に1st EP『Doughy』をリリースした。「生焼け」という意味を持つ作品タイトルが表しているように、レア(生)なバンドの感性を感じさせる1作であり、ここからどこまでも飛び立っていけそうな可能性を感じさせる作品だ。この魅力的な2人組をより深く知るべく、インタビューした。
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最初に衝撃を受けた音楽はColdplayの“Viva La Vida”
―Summer Whalesは2022年8月結成ということですが、具体的にどのような経緯で始まったのでしょうか?
葵:大学の軽音楽部で結成しました。その部活はコピーバンドをやるところだったんですけど、「オリジナル曲もやってみようか」ということで、元メンバーのベースの大樹(角田大樹)と2人ではじめたんです。
―その部活ではどのようなアーティストのコピーをされていたんですか?
葵:Pale Wavesとか、Fugaziとかですね。
―最初、久保さんはサポートでSummer Whalesに参加されていたんですよね。
葵:そうですね。(久保は)学年としては私の1個下で。そんなに話したことはなかったんですけど、技術的にも上手かったし、声をかけてサポートを1年くらいやってもらったうえで、「正式に入ってほしい」と言って入ってもらいました。

葵(Vo / Gt)、久保遼河(Gt)からなるバンド。90年代オルタナ・グランジロックや海外インディーズを香らせるサウンドと、アンニュイでハスキーなボーカルを武器に、抜群の作曲感性とクールな佇まいのライブで活動当初より各地ラジオ局やライブハウスで話題に。スタイリッシュで尖ったロックとキャッチーなポップアレンジを織り交ぜた楽曲は、一度聴くだけでもハッとさせる展開や上質なメロディーが詰め込まれている。心地よい発音で紡がれる、英詞と日本詞のシームレスな移り変わりも魅力の一つ。
―「オリジナル曲を作る」となったとき、葵さんの中には何かしらビジョンはありましたか?
葵:特になかったですね。今もそうなんです。作りたい曲のジャンルや雰囲気が定まっているわけではなくて。
―お2人はそれぞれ、どのように音楽にのめり込んでいったのでしょう?
葵:子供の頃から家の車でジャンル問わずに音楽がずっと流れていたんですけど、その中で好きになったのがバンドの曲で。スマホやパソコンを持つようになると、自分でもバンドを調べるようになってどんどんハマっていきました。最初に「音楽ってめっちゃいいな」と衝撃を受けたのは、Coldplayの“Viva La Vida”ですね。あの美しくてスケールの大きな感じが、自分にとっては衝撃だったんだと思います。
―葵さんが音楽を聴くだけではなく、「作りたい」と思ったのはどのようなきっかけがあったんですか?
葵:「バンドがやりたい」というのが最初にあった感覚です。中学生くらいの頃から、それを強く感じていて。で、バンドを続けていくためには「オリジナル曲がないとあかんのかな?」って。みんながそうではないと思うんですけど、私はオリジナル曲があった方が、バンドが続けられると思ったんです。

―久保さんはどのように音楽にのめり込んでいったのでしょうか?
久保:僕も親の車で聴いていたのが最初なんですけど、THE BLUE HEARTSとかを聴いていて。ギターの真島昌利さんがめちゃくちゃ好きだったんです。特に、真島さんのソロの『夏のぬけがら』というアルバム。中学生の頃は他にやることもなかったので、あのアルバムばかり聴いてました。本当に、同じアルバムばかり聴いている中学生でしたね。
―ご自分でギターを弾き始めたのも自然なことでしたか?
久保:そうですね。ちゃんと弾き始めたのは中学生の頃なんですけど、やっぱり、他にやることがなかったので(笑)。友達も多くはなかったし、学校から帰ってきて、家でギターを弾くしかなかったですね。

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小中学生の頃から、バンドができる道一直線に進んできた
―今、バンドをやることの喜びはどんな部分に感じますか?
久保:楽しい。それに尽きますね。
―葵さんはどうですか?
葵:私は小中学生くらいからバンドとか音楽をやることだけを考えてきたので、喜びというより、それが当たり前という感じです。「バンドができない道には行きたくない」と思っていたので。
―そこまで音楽やバンドを中心に考えられる人生になったのは、何故なのでしょうか。
葵:「ロックバンドはかっこいいものだ」ということが、自分の中で絶対的なものになっていたので。UKロックにハマって、たとえばOasisのギャラガー兄弟の雰囲気に触れて、「こんなに自由でええんや」とか「言いたいことを言ってええんや」と思った。そこにあったのは、ウルトラマンや仮面ライダーに憧れて「かっこいいものになりたい」と思うような感覚だったと思います。自分にとって「かっこいい」ということが、一番強く惹かれるものだった。

葵:あと、5歳くらいからピアノを習っていたんです。特別にうまいというわけではなかったけど、「(ピアノを)これだけ続けているから、この時間ってどう生かせるんやろう? どう繋げていけるんやろう?」ということを、ぼんやり思っていて。10年くらい続けてようやく、自分の思うように指が動いた瞬間があったんです。長いこと続けることで、自分の中にある楽器への感覚が変わるという経験があった。そこから、より「これを手放さんとこう」という気持ちは強くなりました。
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1人で完結できるのに、2人でやる理由
―ミュージシャンの方に取材をする中で、習っていたピアノをやめてしまったというエピソードはよく聞くのですが、葵さんにとっては「続けることで感覚が変わる」という経験をしたことが大きかったんですね。中学生の頃から曲を作り始めて、自分の人生を進めてくれるような手応えを強く感じた曲はありますか?
葵:飛び抜けて記憶に残っているものはないんですけど、曲を作ってきた中でのお気に入りみたいなものはあります。今、Summer Whalesとして出している中だとしたら、“Burden”という曲ですね。この曲はテンションが上がりすぎてもいないし、落ちすぎてもいない、無理をせず平常心で聴けるような曲を作ってみようとして、実際にそれができた曲です。あとは今回のEPの1曲目“Are People Flowers”。この曲は「こういう曲を作ろう」とも決めずに作り始めたんです。「サブスクで聴いてもらうためにはイントロを短くした方がいい」みたいなことも考えず、ただ「次に出したい音は何か?」ということを探っていく作り方をしていて。今回のEPは全体的にそうなんですけど、それが一番如実に出ている曲だと思うので気に入っています。
―葵さんは作詞作曲だけでなく、ミックスなど手掛けられているということで、1人でクリエイティブの大部分を完結できるという面もあると思うのですが、それでも葵さんの音楽活動は「バンド」への憧れから始まっているし、Summer Whalesもまた「バンド」と呼びうる2人組だと思います。葵さんの中には、創作をするうえで他者を必要としているという面はあると思いますか?
葵:あると思います。自分が想像できる範囲のことなら1人でやり切れると思うんですけど、それを超えてくるものを待っているし、求めている。だから、1人で完結させる道にはそこまで惹かれないのかもしれないです。
―2人で活動しているよさは感じられますか。
葵:そうですね。違う生活をしている人同士が合わさって生まれるものは面白いものだろう、というのは感じます。

―葵さんの作る曲や歌詞の世界観は、表面的には例えばTHE BLUE HEARTS的なものとは違うテイストのものだと思うんですけど、久保さんは、葵さんの作る作品にどのような魅力を感じながら向き合っていますか?
久保:おっしゃる通り、僕が聴いてきた音楽とは全然違うものなんですけど、最初に「サポートをしてくれへん?」と言って聴かされた曲から、まったく違和感はなくて。葵さんが持ってくる曲って、基本的にものすごくシンプルなコードなんです。そこに、これだけいいメロディがつくのはすごいなって思っていますね。
―「シンプルさ」というのは、葵さんは意識されているポイントですか?
葵:コードのシンプルさというより、メロディを意識しています。覚えやすいメロディの曲が好きなのでそれを意識しながら作っていたら、結果的にシンプルなものになっているのかなと思います。
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歌詞を書くのは「向き合う」感覚
―Summer Whalesというバンド名はどのようにして決められたんですか?
葵:Summer Whalesとして最初に作った“Swallow”という曲があって。その歌詞は悩んで書いたというよりふわっと出てきたものだったんですけど、その中に<Whales>というワードが出てくるんです。あと、私は夏の曲が持っている雰囲気が元々好きなんです。それを組み合わせて、Summer Whalesになりました。
―葵さんが思う夏の曲が持つ雰囲気というのは、どのような魅力があるものですか?
葵:……難しい(笑)。感覚的なものなんですよね。私、季節の中で夏だけは夏用のプレイリストを作るんですよ。暑いのは好きじゃないんですけどね(笑)。
―葵さんにとって歌詞を書くのはどういった行為ですか?
葵:最初はあくまで音やリズムやメロディを作ることが楽しくて、言葉をつけることは結構しんどいなと思っていて。今でも歌詞を書くのは楽じゃないし、楽しさがあるというよりは「向き合う」という感覚です。歌詞は、1曲全体の歌詞で何かを伝えるというよりは、1曲を書き終えたときに、1文とか1ワードで「これは自分の中で伝えたいことや」というものがあると、「この曲、よりいいな」と思える。そういう感じですね。書き終えたときに、「自分ってそう思ってたんや」と気づいたり。
―Summer Whalesとして作られた1曲目“Swallow”の歌詞を書かれたときに、そういう感覚はありましたか?
葵:“Swallow”はバンドの1曲目ということもあって、「それまで」と「ここからどうするか」をシンプルに書くことができたと思います。バンドも何度か組もうとしてうまくいかないことが続いていて、「そろそろソロでやってみようか」みたいな選択肢も出てきていた時期の曲なので。

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EPとして意図したコンセプトはない
―EP『Doughy』はジャケットも印象的ですが、ここのジャケットにはどのようなイメージがありましたか?
葵:そこまで強い意味というわけではないんですけど、私としては、肌の一部がパカッと開いていて、その向こう側に、実際に体の中にはないものが詰め込まれているっていう。抽象的なんですけど、「外に出ていく」ということをイメージして作ってもらったんです。

―収録された5曲は、それぞれ独立してバラバラな楽曲たちだけど、1曲目から5曲目を通して聴くうえで広がっていた景色が徐々にパーソナルなものに集約していくような物語性も感じました。曲を選び並べるうえで考えられていたことはありますか?
葵:事前に「どういう作品にしよう」ということは考えていなかったんですけど、振り返ってみると、「リファレンスが特にない」ということが特徴になったのかなと思います。最近は音楽でもミュージックビデオでも、リファレンスをいっぱい持ったうえで作られたものが多いと思うんですけど、この『Doughy』に関しては、そういうことは一切やっていないんです。「自分らの中からパッと出てきたものをパッケージしてみよう」という感じでやってみたら、Summer Whalesにしかないものができたなと思います。
―久保さんにとってはどうですか?
久保:葵さんが言ったように、自分の中から勝手に出てきたものを弾いただけ、みたいな感じですね。今までいろんな音楽を聴いてきたので、意図せず出てきているものはあると思うけど、「このEPをどうしたいか」みたいなことはまったく考えていない。1曲1曲、ただ出てきたものを弾いて録った。そういう感じです。

―例えば1曲目“Are People Flowers”の歌詞は主語が<We>で、5曲目“Chasing Your Shadow”の歌詞は主語が<I>で綴られています。歌詞の主語は、どのように考えられていますか?
葵:一人称が<I>か<We>かという部分は意図的ではあります。歌詞で描いている情景があって、それが「自分がこうしたい」ということなのか、それとも「周りと」なのか。「1人じゃないな」と思ったらシンプルに<We>で書いています。“Are People Flowers”は、歌詞というよりは散文詩みたいな感じで、自分の中でもしっかり意味が理解できるわけではないんですけど、「何かを見つけた」という感覚があって。それが「1人で見つけた」というよりは「みんなで見つけた」という感じがしたんです。
―2曲目“Stroller”の歌詞は特定の「you」に対して歌っているような内容に思えますが、どのような情景がありますか?
葵:個人的な気持ちと、バンドとして聴き手側に伝えたいことが混ざり合っているかなと思います。