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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

佐藤雅彦、初の大規模個展レポ ピタゴラスイッチやだんご3兄弟を生んだメソッド

2025.7.11

#ART

佐藤雅彦、実は教育がやりたかった

後半の展示室では、1999年に佐藤が慶應義塾大学の教授となってからの、研究室メンバーと模索した「研究」と「表現」が紹介される。CMや商品作りとは全く異なる、いわば純粋な知的衝動の成果と言える作品群だ。認知科学や計算機科学といった難解な印象の言葉が出てくる展示だが、通底しているのは、新しいやり方で世界を見る、それを分かりやすく表現する……という変わることのない佐藤イズムである。

展示風景:佐藤は幼少期から、人にものを教えることがなによりも好きだったという。慶應義塾大学佐藤雅彦研究室を舞台に「教育」と「創造」とが一体になった活動を展開している。『コんガらガっち』で知られるユーフラテスは、佐藤と慶應義塾大学佐藤雅彦研究室の卒業生からなるクリエイティブグループだ。

展示はテーマごとにいくつかのセクションに分かれており、いずれも小ビジョン(参考資料、研究生たちの習作)と大ビジョン(完成した作品)で構成される。どちらも映像の尺は長く、全てを味わおうと思ったらこの後半だけで1時間はかかりそうなのでご注意を。

展示風景:学童机と椅子が用意されており、足元も学校風に仕立てられている

注目は「actual(アクチュアル)な数学」のセクション。上映される映像は、数学という概念的な世界を、モノを使った実演で捉え直すというものだ。多くの子どもにとってのつまずきポイントとされている「平均」や「平行四辺形」などの概念が、具体的な手触りとともに理解できるように工夫されている。子供のころから算数が大の苦手だった筆者にとっては目からウロコの連続だった。強固な苦手意識が氷解し、もし学生の頃にこういうものを見ていたら数学が好きになっていたかもしれない、とまで思った。帰りにミュージアムショップで佐藤の『日常にひそむ数理曲線 DVD book』を買って帰ってしまったほどである。

どうやら目からウロコを落としていたのは筆者だけではないようで、ひとつめの映像が終わったあと、立って観ていた来場者たちがガタガタと椅子を引いて着席する音があちこちで聞こえた。そう、ここの展示は特に腰を据えたくなるのである。ひとつ分かると、もっと分かりたくなる。そんな感動を来場者同士で共有できたような気がした。

展示風景:短編映像が連続上映されている「Theater extra〜余分な劇場〜」

展示の最後には、「Theater extra〜余分な劇場〜」と銘打たれたムービーコーナーが。ここでは頭のクールダウンと言わんばかりに、何も考えず楽しめる選りすぐりの短編映像が連続上映されている。取材時はちょうど最後の一本である『ビーだま・ビーすけの大冒険 エピソード4』に遭遇して何気なく観始めたのだが、ピタゴラ装置を使った壮大な冒険物語(なぜかちょっとミュージカル調)は笑いと感動に満ちていて、心から満ち足りた気持ちで展覧会を後にすることができた。2025年1月に放映されたばかりの大人気シリーズ最新作なので、テレビで見ている人もいるかも? もし展覧会を隅々まで鑑賞する時間がないという人でも、極力時間を合わせてこの一本は観ておくことをオススメする。

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