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『だんご3兄弟』ブームの奥にあった苦悩

会場に並んでいる機械は、オート・ティーチング・マシン(ATM)と名付けられた自立型モニターだ。このATMが教えてくれるのは、佐藤の思考の根本にある面白さを生み出すコツであり、表現の基本ルールである。現金よりよっぽど重要なものだと思うのだが、暗証番号なしで引き出させてもらえる。実際のCM映像を使った具体的な検証の連続で、4台のマシンそれぞれが授業のひとコマになってもおかしくないほどの充実した学びの機会(機械)となっている。また、ATMの他にも壁面には佐藤によるポスターの製作例や、「ネーミングを作るための方法論」がさらっと掲示されており、本当にこの人には企業秘密 / 秘伝のレシピといった感覚がないのかと衝撃を受けた。
ATMは画面の文字と音声で丁寧に語りかけてくる。ちなみに佐藤自身の語るところによると、大学の講義などでこうやって方法論を語ると、学生たちは皆「自分にもできそう!」と興奮するのだが、実際に創作してみるとなかなか上手くいかないらしい。言うは易く、行うは難し。それにしたって異常に太っ腹なことに変わりはないと思うのだが。
このあと、展示はゲーム『I.Q』のコーナーや国民的ヒットソング『だんご3兄弟』などのコーナーが続く(大画面で見る『I.Q』のエンディングには、プレイ時の苦労を思い出して感涙である)。中でも『だんご3兄弟』を扱ったシアタールームは展覧会の中でも異色の一角だ。作品が生まれるまでだけでなく、同作が想定外の社会現象となってしまった後の佐藤自身の戸惑いや葛藤について触れられている。我々が「だんごだんご」と言ってはしゃいでいた裏側には、「ブームという怪物」に立ち向かい、本来の意味を取り戻そうとする作者の苦闘があったのである。