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ポリンキー、モルツ、カローラ……70本以上のCMを生んだ「音から作る」方法論
展示はざっくりとふたつの展示室に分かれている。前半が佐藤の表現者としての側面にスポットを当てた展示室、後半が教授職に就き、自らの研究室を持ってからの活動を紹介する展示室だ。

まずは佐藤雅彦が広告代理店で生み出した数々の名作CMや企業キャラクター、そしてゲームや童謡などが、その創造秘話とともに紹介される。手前の展示ケースの中にあるのは、佐藤が理由もわからず集めていたという劇場の座席表や鉄道の料金表など。それがなぜ自分にとって良いと感じられるのかを突き詰めて、そのルールを広告デザインに当てはめる……「蒐集→抽出→適用」という流れが、ここではステップによって視覚的に伝わるようになっているのだ。さっそく、「分かってもらうにはどうしたらいいか」への情熱、という執念を感じるポイントである。

まるでお家のような形が可愛い一角は、シアターコーナー。シアター1では、佐藤による膨大なCM作品の中から70本を一挙に振り返る(ポリンキー、モルツ、カローラ……ものすごく懐かしい!)。シアター2では、それらを生み出す鍵となった「音から作る」という基本ルールが解説される。15分ほどのがっつりしたレクチャー映像だが、非常に分かりやすく必見である。さらに感動したのは、映像の最後に会場マップと動線が示され「ご静聴ありがとうございました。この続きは、こちらのコーナーで……」と、誘導が入ったことである。鑑賞者への手の差し出し方も、離し方も、ものすごく優しい。普通そこは、制作会社のロゴが入って終わりではないのか。未だかつて展覧会で映像を観た後に感じたことのない温もりと、「よ〜し、次も分かりに行くか!」という素直な気持ちに自分でも驚いた。さすが、「伝え方」を考え続けてきた人の展覧会である。