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劇場でこそ味わい尽くせる映画である
俳優たちの奮闘はもちろんのこと、本格的という言葉を使うのも失礼なほどに、画や殺陣などの全てのクオリティーが、インディーズ映画では規格外だ。
公式サイトのイントロダクションにあるように、「自主映画で時代劇を撮る」という試みそのものが無謀なはずだ。それでも「脚本がオモロいから、なんとかしてやりたい」と東映京都撮影所が手を差し伸べたこと、10名たらずのロケ隊が撮影を敢行したこと、初号完成時の安田淳一監督の銀行預貯金は7000円と少しだった、というエピソードそれぞれを聞くだけで応援したくなるし、その身を削るような奮闘が、作品のクオリティーに結実し、圧倒的な高評価と拡大公開へとつながったことが心から嬉しくなる。
そして、本作は映画の醍醐味を、劇場という環境でこそ味わい尽くせる内容であることも強く推しておきたい。観客からクスクスと笑い声がもれるコメディならではの楽しさはもちろん、とある場面の「固唾を呑んで見守る」体験は、誇張抜きに『THE FIRST SLAM DUNK』に引けを取らない。改めて、この拡大公開という僥倖を噛み締めるためにも、機会を逃さずに劇場で見届けてほしい。
『侍タイムスリッパ―』

2024年8月17日公開
監督・脚本・撮影・編集:安田淳一
殺陣:清家一斗
出演:山口馬木也 冨家ノリマサ 沙倉ゆうの
撮影協力:東映京都撮影所
配給:ギャガ 未来映画社
宣伝協力:プレイタイム 南野こずえ
2024年/日本/131分/カラー/1.85:1/ステレオ/DCP
©2024未来映画社
■公式サイト https://www.samutai.net/
【ストーリー】
時は幕末、京の夜。会津藩士・高坂新左衛門は、密命のターゲットである長州藩士と刃を交えた刹那、落雷により気を失う。眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。行く先々で騒ぎを起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだと知り愕然となる新左衛門。一度は死を覚悟したものの、やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩く。「斬られ役」として生きていくために…。