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映画『侍タイムスリッパー』が大躍進 たった1館の劇場から全国に拡大した理由

2024.9.24

#MOVIE

©2024未来映画社

8月17日に池袋シネマ・ロサでたった1館のみの上映がスタートした映画『侍タイムスリッパー』が、ものすごいことになっている。8月30日の時点では川崎チネチッタとあわせて上映劇場は2館のみだったのだが、ギャガが配給に加わり、9月13日より62館と一挙に増えたのだ。9月27日より上映館は全国139館以上にまで拡大する。

もちろん、それは観客からの圧倒的な口コミのおかげだ。レビューサイトでの評価は拡大公開後も映画.comで星4.4 / 5、Filmarksで星4.1 / 5をキープし、「あっぱれだった」「殺陣(たて)のシーンは2024年のベスト」といった絶賛の声が相次いでいる。そのムーブメントも含め、2024年の映画における最重要作でもあるだろう。

わかりやすい王道のエンターテインメントで、万人に勧められる

あらすじは単純明快。「幕末の侍が京都の時代劇撮影所にタイムスリップして、斬られ役として奮闘する」というものだ。その時点で、「人におすすめしやすい」ことが本作の大きな強み。タイトル通りに「侍がタイムスリップ」する内容から、マンガおよび映画『テルマエ・ロマエ』のように、文化がはるか先に進んだ世界に戸惑う「カルチャーギャップコメディ」の面白さがあるのは、ほぼ保証済みなのだから。

侍が現代にやってくる設定を取り出せば、過去には小説および映画の『ちょんまげぷりん』もあるし、もちろんそれ自体に目新しさはない。だが、後述する全ての要素がハイレベルで、その期待通りの面白さを突き詰め、エンターテイメントとして「王道」な作りとなっているのだ。

そのキャッチーさ、および内容のわかりやすさから老若男女におすすめできるし、時代劇に親しみのあるご年配の方であれば、その溢れんばかりの「愛」に感動するのではないか。時代劇が、斜陽どころか作られなくなってきている現状(劇中ではガラケーを使っており2007年の設定)を踏まえてなおも、時代劇の素晴らしさを信じている言葉は、時代劇をよく知らない人にも届くはずだ。

『侍タイムスリッパー』場面写真 ©2024未来映画社

『カメラを止めるな!』と符合する要素

超小規模の公開だったインディーズ映画ながら、SNSでの口コミで上映劇場が劇的に拡大したことから、『カメラを止めるな!』を思い出す人は多いだろう。そのムーブメントや、笑えて泣けるコメディドラマであること以上に、『カメラを止めるな!』と『侍タイムスリッパー』は符合するところが多い。

第一に、「カメラを回して作品を撮る」構造があることだ。『カメラを止めるな!』はゾンビ映画に、『侍タイムスリッパー』は時代劇に挑む様がそれぞれ面白く、何より俳優やスタッフの奮闘が、そのまま劇中の役にシンクロしている。ある種メタフィクション的な構造をもって、現実にもいる映像作品の「作り手」に敬意と愛情を捧げているのだ。

『侍タイムスリッパー』場面写真 ©2024未来映画社

また、『カメラを止めるな!』は「ゾンビ映画」というジャンルだけを取り出せば残酷で人を選びそうにも思えるが、作品構造上「血も血糊の作り物ですよ」と示すアフターケアがあるおかげもあって、子どもにもおすすめできる内容となっていた。

今回の『侍タイムスリッパー』は前述した通りのキャッチーさのためにさらに老若男女に勧めやすいのだが、一方で容赦なく斬り合う侍の残酷さに向き合う場面もあり、それを映像作品として作る上での、いい意味での「正しくなさ」を含めて提示している。それに付随する終盤のとある演出は驚ける以上に、「創作」にまつわる物語を提示する上で非常に重要な視点を与えてくれる。

しかも、創作上で映し出される血もまた重要であり、異なる理由でありながらも「カメラを回し続ける」と宣言する様も一致している。実際に『侍タイムスリッパー』を手掛けた安田淳一監督は「『カメラを止めるな!』を目指して作った」とも語っており、間違いなくそのトリビュートでもあるのだ。

『侍タイムスリッパー』場面写真 ©2024未来映画社

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