メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

寺尾紗穂インタビュー 悲しみに気づける社会であってほしい

2025.4.24

#OTHER

子どもの声が聞こえるのは、平和な証拠

─tomotoは、カルチャーが一つの軸になっている場所ですが、寺尾さんが子どもの頃、文化的なものに触れた経験として、印象に残っているものはありますか?

寺尾:母が劇団の女優をやっていたこともあって、7歳くらいの頃に、演劇集団「円」の公演に連れて行ってもらったことがありました。たしか、別役実さんが戯曲を書いた『卵の中の白雪姫』だったかな。それが印象に残っていたからか、中学にあがってから、3つ上の先輩たちがオリジナルミュージカルをやっていたのに感動して、見よう見まねで、ミュージカルサークルをつくって活動したりしていました。自分の子どもたちにもああいうものを観てほしいなと思って、同じく別役実さん作の『不思議の国のアリスの帽子屋さんのお茶の会』を観に行きましたね。

─子どもの頃、文化や芸術に触れることの意義って、どのようなところにあると思いますか?

寺尾:「よくわからないけれどすごく印象に残っている」ということが大事なんじゃないかな。どう大事なのかはわからないけど、特別な体験をしたという記憶が、おそらくいろいろな形で可能性を広げていくんだと思います。お金のない家庭は、なかなかそういうものに触れさせられなかったりしますよね。学校で劇団を呼んだりするところもあると思うんですけど、文化の格差も是正されてほしいです。

─寺尾さんのライブにも、お子さんはいらっしゃいますか?

寺尾:うん、結構います。ライブ中に子どもが思いがけず声を発したとき、たまに、振り返ったり気にする感じの人もいます。でもたまたま子どもの声がなんとなく歌詞とリンクして、思いがけない感動が生まれたりすることもあって。「そういう奇跡みたいな瞬間を楽しみにしてくださいね」とMCで呼びかけたりすることで、感性をそこに合わせてもらえたらと思っています。気にしだすととことん気になってしまう。逆にそうかもな、と思えれば人の感じ方って大分変わると思うんです。子どもの声が響いていることや、音楽が鳴っていることって、平和じゃなければあり得ないので、そういうことも含めて感じてもらえたら嬉しいです。

─ちょうど昨日(※取材は1月下旬)、昨年度の小中高生の自死者が過去最多だったというニュースを見て。

寺尾:ああ、見ました。

─そういう状況があるなかで、子どもが育まれる場所として、社会にどんなことが必要なんだろうと考えていました。

寺尾:一つは、学校がもっと緩まないといけないのかなと感じます。先生たちが規律みたいなものを頑なに守ろうとすると、生徒たちもその雰囲気の中で育つんですよね。そうすると、規律を乱す子どもを毎回注意したり、まわりの子どもたちもそれを見て責めたりするわけじゃないですか。子どものうちに自己肯定感を育むために、小さな成功体験を積み重ねていかなきゃいけないのに、ずっと怒られているようなことは、おかしいです。発達に問題を抱えた子に、どういう風に声かけすればいいのか、逆にどんなことを言ってはいけないのかを指導要領などのガイドラインなどで共有していれば、傷つく子どもが減ると思います。これだけそういう子たちが増えてきているのに、文科省がはっきりした指針を出さないために、まだ足並みが揃っていないですよね。

大阪府の大空小学校という公立の学校を撮った、『みんなの学校』というドキュメンタリー映画があるんです。その学校は、当時の校長先生が一大改革をして、「あの子が行くならほかの学校にしましょう」と言われるような子たちを積極的に受け入れて、不思議なことに、結果的に学力もすごく上がった。規律を守らせれば、勉強に集中できるという考え方とは、まったく違う新しい常識をつくっているんです。象徴的な場面は、さっきのライブでの子どもの声の話と似ています。授業中に声を発してしまう子がいる教室の中で、先生は「彼は今こういう状態だけど、あなたたちは自分のやることあるんだよ。集中できるよね」といった声かけをしていたんです。気になると言えば気になる、でもそう言われたとき、切り替えられる力が人にはあるんだな、と感じました。公立の先生の考え方が変わっていかないと、苦しい子どもが増えるばかりなんじゃないかなと感じます。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS