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寺尾紗穂インタビュー 悲しみに気づける社会であってほしい

2025.4.24

#OTHER

2024年7月、東京・多摩ニュータウンの一角に、NiEWが運営する子どもと地域のためのカルチャースペース「tomoto(トモト)」がオープンした。

近隣の子どもや、子育て中の家族をはじめとした人たちが、気軽に立ち寄れる地域の居場所として、無料の子ども食堂や、アーティストによるワークショップなども開催。文化や芸術を通じて、さまざまな状況にある人たちにとっての、拠り所となることを目指している。

そんなtomotoを訪れたのは、シンガーソングライター、エッセイストの寺尾紗穂。個人や家庭が抱える暮らしの負担や、孤独の問題が、コロナ禍以降とくに顕在化してきたなかで、困りごとを抱える人が孤立せず、伸びやかに子どもが育っていくために、どのようなことが社会に求められるのだろうか。

ホームレス状態にある人が生計を立て直すための雑誌『ビッグイシュー』を応援する音楽イベント『りんりんふぇす』を主催し、『子どもたちに寄り添う現場で』と題したWeb連載では子ども食堂への取材を行うなど、福祉や人をつなぐ場づくりに関心を寄せてきた寺尾に、自身の経験や活動を通して感じることを聞いた。

公園や児童館、子どもたちの遊び場の減少

─寺尾さんは、多摩ニュータウンのこの辺りにゆかりはありますか?

寺尾:昔、母の友達が住んでいて、小さい頃に一度訪ねたことがありました。なんだかすごいところだなと思った記憶があります。大学も近くでした。

寺尾紗穂(てらお さほ)
1981年東京生まれ。2007年ピアノ弾き語りアルバム『御身』でデビュー。大林宣彦監督の『転校生 さよならあなた』、安藤桃子監督の『0.5ミリ』など主題歌の提供や、CM楽曲制作(KDDI、キューピー、JA共済ほか)、音楽に限らず新聞(日経、北海道)やウェブでの連載も多数。オリジナルの発表と並行して、ライフワークとして土地に埋もれた古謡の発掘およびリアレンジしての発信を行う。『ミュージック・マガジン』誌では「戦前音楽探訪」の連載を6年間担当した。また、全国各地のアートプロジェクト、東東京エリアの『隅田川怒涛』(2021)、高知・須崎の『現代地方譚』(2022)、横須賀の『SENSE ISLAND/LAND』(2024)などに招聘され、リサーチを経ての表現活動も増えている。2009年よりビッグイシュー・サポートライブ『りんりんふぇす』を自ら主催。2024年に11回目を迎え、山谷・玉姫公園にて開催した。また、女工たちを描いた『女の子たち 紡ぐと織る』、兵器製造に動員された女学生を描く『女の子たち 風船爆弾をつくる』など、作家小林エリカとタッグを組み、歴史に埋もれた女性たちの声を、当時の音楽と共に甦らせる音楽朗読劇を制作している。あだち麗三郎、伊賀航と共に3ピースバンド「冬にわかれて」でも活動を続ける。音楽アルバム近作は「しゅー・しゃいん」。前作「余白のメロディ」(2022)に続いて『ミュージック・マガジン』の年間ベスト(ロック部門)10枚に選出された。2025年6月、アルバム「わたしの好きな労働歌」をリリース予定。

─団地が多く、大学も多いので子どもたちから学生、家族連れ、地域のお年寄りまで、さまざまな人が暮らしている街とのことです。寺尾さんは東京ご出身で、いまも東京に暮らしながら子育てをされているんですよね。

寺尾:何度か引っ越していて、最初は世田谷で、離婚したあと上の子が中学にあがるくらいまでは杉並の実家の近くにいました。ちょうど残っていたような農地が売られて杉並にどんどんマンションが建っていた時期でした。子どもが増えているのに、経費削減のためか杉並全体で児童館が統廃合されていたこともあって、私が子どもの頃に放課後行っていた児童館も、学童の子たちだけでいっぱいで、他の子どもが入りきれなくなっていたのはかわいそうだなと思っていました。公園は確かにあるけど、一輪車に乗れたり、カードゲームをするうちに他校の子と自然と仲良くなれたり、ちょっと年上のお兄さんのような児童館スタッフに出会える場所がなくなるのは結構深刻じゃないかなって。

─いまは公園もルールが厳しいですよね。

寺尾:ボール遊びができなかったり、「この木には登らないでください」って立て札があったりね。前にそれを破って木登りをしている子がいて、「おお、登ってるな」と見ていたら、怒られると思ったのか降りちゃって。私も子どもたちが小さな頃は一緒に木登りをすることがあったんですけど、それを「危険だから」と止めるお母さんもいたし。公園側が禁止してしまうのは、都会の子どもにとって数少ない自然と直に触れ合う貴重な機会を奪っていると思うんですけどね。

tomotoは多摩市・落合団地商店街の一角にある。多摩センター駅からは20分近く離れているものの、徒歩3分以内に保育園、中学校、小学校、大学があり、多くの子ども / 若者たちが通うエリア。空き店舗が出ても、抽選募集になるなど地域では人気のエリアとなっている。アクセスはこちら

─寺尾さんの子ども時代についてもお聞きしたいです。学校はお好きでしたか?

寺尾:多分、いい先生に恵まれたからなんですけど、そのせいか学校は嫌いじゃなくて。私は学ぶことが結構好きだったんです。集団はあんまり好きじゃなかったけど、すごく嫌というほどではありませんでした。「みんなでドッジボールしよう」ってなっても、自分がしたくないときは、教室に残ってずっと金魚を見ていたりしましたね。

─自分のペースで過ごせていたんですね。

寺尾:ただ、自分の娘たちも含め、いまの子たちを見ていると、傷つけたくないし、傷つきたくなくて、気を遣って生きている感じがすごくします。親がこんなルーズな感じでも、子どもは学校という社会の中で、主な枠がつくられてしまうんだなと。

─どんなときにそれを感じるんですか?

寺尾:担任の先生のやり方が、ちょっとどうなんだろうと感じたときに、連絡帳に書いて伝えてみようかなと言ったら、「やめて」と。「目立ちたくないし、言わなくていい」と言うんですよね。でも、そういう事なかれ主義的な感覚だけになってしまうのは怖いと思っていて。「優しさが正義」というのは間違いではないけれど、そこに偏りすぎると、疑問を持っても、なにかを正したり、直していくことができなくなってしまうんじゃないかと思います。

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