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わかりやすさよりも、作品自体の純度の高さを重視した展覧会
会場中で唯一明るい一室は、「坂本龍一アーカイブ」だ。坂本作品の根幹にある思想や哲学、時代背景などを知ることができる貴重なコーナーである。注目はガラスケース内にある坂本の手書きのメモで、思考の断片を短い言葉で綴った「アイデア帳」とも心の叫びとも取れる紙片(詩篇?)となっている。

書架に展示された先述のオペラ『LIFE』の関連資料も非常に見応えがあり、中でも関係者向けに作成されたと思われる、初日8ヶ月前時点の会議メモが面白い。「筋がわかりにくい場合は、ナレーターによる簡潔な説明を挟み、また、ブックレットなどによって補足する」と、この時点で大衆への伝わりやすさよりも作品自体の純度の高さを取ると宣言されているのである。メモはこう続く。「重要なのは、音とイメージによる総合的表現から言葉にならぬヴィジョンを感じ取らせることである」。まさに、この展覧会にも同じ意識が満ちていると感じた。