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坂本の実験的アルバム『async』に通じる巨大作品

地下2階展示室に入ったところで再び、高谷史郎とのコラボレーション作品に触れたい。幅18mの巨大LEDウォールを使った『async-immersion tokyo』は、2017年の『Ryuichi Sakamoto|async 坂本龍一 | 設置音楽展』で発表された『async-drowning』と同じ系譜の作品だ。本展ゲストキュレーターの難波祐子はその体験について論考で「観客の多くは、展示室に入ると長時間その場にとどまり、一枚のアルバムを集中して聴くかのような体験をした」と記している。実際、この作品の前にはじっと見入っている人の姿が特に多かったように感じる。

坂本の実験的アルバム『async』の楽曲のもと、高谷による映像が流れる。画面の風景は端から1ピクセルずつじわじわと線に還元されていき、まるでタペストリーの糸が解けていくようである。やがて全てが異次元空間のような横線の世界になってしまったあとは、逆にじわじわと新たな風景が固定されて「織り上がっていく」様を見守ることになる。どちらから見始めるかは展示室に入るタイミング次第だが、より刺激的なのは、なすすべなく「解けていく」ほうではないだろうか。画面前に設置されたベンチに腰を下ろしていると、左右どちらかから徐々に自分の足元へ融解のラインが迫ってくる。自分をこの時間に留めているものが無くなり、形を失くしてしまうんじゃないかという恐怖。ついにラインを超えた瞬間の、ふっと「解けた」感覚はぜひ体感してみてほしい。