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音を受け止めるには水分が必要
ドイツのカールステン・ニコライとのコラボレーションも面白い。同氏は「Alva Noto」名義でも知られるアーティストで、2000年代から坂本と複数のライブやアルバム制作を共にしている。本展で観られるのは、彼が冒険小説『海底二万里』にインスパイアされて執筆した脚本を、坂本の最後のアルバム『12』の楽曲とともに映像化した作品だ。2本の映像のうち『ENDO EXO』が特に心に残る。

坂本のピアノが鳴るなか、カメラが剥製や骨格標本の姿をゆっくりと追う。タイトルのENDO(内)、EXO(外)はギリシャ語由来の接頭語とのこと。この場合、外が剥製(表皮)、内が骨だと解釈できるだろう。動物の乾いた頭蓋骨を観ていて、最近買った骨伝導イヤホンのことを考えた。アレを使えばこの骨を震わすことはできるだろうけど、音を聴かせることはできない。骨や鼓膜をどれだけ震わせたって、内耳でリンパ液を波立たさなければ、音は音として認識されない。音を受け止めるには水分が必要なのだ。自ずと意識は「内」のさらに「内」、骨格に守られた水っぽい中身のほうへと向いていく。聴くという行為は、思ったより内側の、精神とか心のそばで起こっているのだろう。