国内においてR&B / ソウル音楽を起点にしたポップミュージックが盛り上がりを見せる中、ここに来て大型新人の登場だ。その名は、Roka(ロカ)。神奈川県出身で、作詞、作曲、アレンジまでをセルフプロデュースで手がける1997年生まれのアーティスト。と聞くと職人気質のシンガーソングライターを想像するかもしれないが、それだけでなくポップシンガーとしての華も持ち合わせているのがすごい。一体何者!? ……と思い話を訊いてみたところ、紆余曲折を経たユニークな経歴が浮かび上がってきた。“CUTENESS”、“冷めぬまま”とまだリリースは2曲だが、確かな、そして新時代の才能であることは間違いない。どういった背景でRokaという人物の原型が出来上がったのか、キャリア初のインタビューをお届けする。
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同じスタイリング剤を使うほどOne Directionに傾倒した思春期
—今日は聞きたいことがたくさんあるんですけど、まずはどういった音楽に夢中になってきたのかうかがってもいいですか?
Roka:幼い頃は、父親が好きで聴いていた宇多田ヒカルさんの音楽がすごく記憶に残っています。その後小学校で、母親の影響を受けてK-POPを聴き始めました。当時、東方神起やBIGBANGが流行っていて。iPodの小さい画面でライブ映像を見ていたのを覚えています。とは言え、特に音楽一家とかではなく普通の家庭でした。ピアノも小学校の時に習ってたんですけど、恐い先生に変わってしまったのをきっかけにやめてしまいまして(笑)。
—その後、自分の意思で音楽を選んで聴くようになったのは?
Roka:中学生になって、One Directionにハマったんですよ。そこから欧米のポップスを聴くようになり、ジャスティン・ビーバーやP!nk、ブルーノ・マーズなどにも興味を持ち始めましたね。
—なぜOne Directionに惹かれたんですか?
Roka:楽曲のポップさや聴きやすい曲調に惹かれたんだと思いますけど、それだけではなくて、メンバーの見た目やヘアスタイルなど音楽以外の魅力も大きかった気がしますね。当時、自分はヘアスタイリングに熱中していて毎朝30分とかかけてやってたりしたんですが、彼らが使ってるプロダクトを調べて取り寄せて実際に使ったり(笑)。ドキュメンタリーの映像とかも見てましたね。
—わざわざスタイリング剤を調べて取り寄せるのはすごいですね!
Roka:かなり熱中していました。あと、One Directionはオーディション番組をきっかけに結成されてるんですけど、当時からそういうのを見るのも好きで。その憧れから、ダンス&ボーカルスクールに通うようになったんですよ。
—なるほど。
Roka:高校では、それまで続けていたバスケをやめて軽音楽部に入ったんですが、その後大手事務所がやっている育成プログラムのオーディションに応募したら採用されまして、レッスンを受けるようになりました。そのくらいの頃から、本格的に「歌で食べていきたい」と思うようになりましたね。
—ダンス&ボーカルの育成プログラムを受けていたんですね!
Roka:そうなんです。軽音楽部でOne Directionのコピーをやってボーカルで歌いつつ、育成プログラムでレッスンを受けて。週1回東京で歌を学び、月1回でダンス、演技の総合的なレッスンも受けるという感じで。その後さらに大手事務所のプログラムに参加できることになったのですが、そこではほとんどダンスがメインで。週4回くらいダンスレッスンを受けていました。
—ここまで聞いた感じだと、完全にダンス&ボーカルグループを結成してデビューする流れなんですが(笑)。
Roka:ですよね(笑)。そんな日々を送るなか、ダンス&ボーカルスクールの先生がオールドスクールのヒップホップで踊ることが多くて、それをきっかけに自分はダンスよりも、どちらかというと自分が生まれる以前の音楽に興味を持つようになりました。同じ頃、高校を卒業して音楽の専門学校にも通うようになって、そこでも昔の音楽を知り始めて。このあたりで自分の音楽に対する価値観がちょっと変化し始めました。でも本格的に変わったのは、専門学校を中退してブルースに出会ってからですね。そもそもひとつの曲の中に楽器のソロが入ったりするんだってびっくりして、それまでのポップスとは明らかに違う魅力を感じたんです。
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オリジナルに寄せるのは窮屈、それなら自分の曲を歌いたい
—ブルースですか! これは予想しない展開になってきました。
Roka:エリック・クラプトンを聴いて、それまで歌中心の鑑賞だったのが、楽器にも興味を持つようになったんです。インスト音楽を漁るようになった。あと、トム・ミッシュもすごく聴きました。当時はまだ今ほど有名じゃなくて、楽曲を作ってる様子をYouTubeにアップしていたりしたんです。そうして音楽において楽器を中心に聴くようになって、アドリブも楽しいと思うようになった。「歌を歌う」以外の楽しみを見つけたんですよ。
—けっこう珍しいケースだと思うんですけど、なぜそのような転換が起きたのでしょうか。
Roka:うーん……(しばし沈黙)たぶんですけど、当時通っていたダンス&ボーカルスクールで、ある時からアレンジを効かせた歌を歌うようになってたんですよ。オリジナルに忠実にやるのではなく、ジャスティン・ビーバーやブルーノ・マーズの歌い方を真似たりしながら、自分なりに個性を出すようになった。なぜか、そういうことをしたくなったんです。でも当然、スクールではもっとオリジナルに寄せましょうと言われるわけですよね。だったら、自分で曲を書いて歌えば何も文句は言われないんじゃないか? と考えるようになったんですよ。
—なるほど。ルールに縛られたくない性格なのかもしれない?
Roka:そうなのかもしれないです(笑)。スクールでは、生徒からは褒められるんですけど先生からはやめなさいって言われるわけで、ちょっと反骨心が芽生えてきた。
—それで、音楽の聴き方にも変化が出はじめたんですね。
Roka:曲を作ろうとする中で、ミックスやアレンジについても自分で学ぶようになって。それでリバーブの使い方やベースの鳴り方、ストリングスの配置など、音楽をより総合的に捉えるようになりました。それまで歌を中心に聴いていたのが、音楽全体としての構成や質感に注目するようになって、ジョン・メイヤーが好きになりました。曲が良いし、アレンジも参考になる。アンダーソン・パークやHiatus Kaiyoteなどにもハマり始めて、今でも大好きです。
—ご自身で作曲を始めるにあたっては、どのようなステップで進めていったんですか?
Roka:最初は父親に買ってもらったアコースティックギターで簡単なコードを弾くところから始めて、その後ラップトップでDAW(音楽制作ソフト)を使ったトラックメイクを学んでいきました。それこそトム・ミッシュの動画とかを見ながら。YouTubeで作曲やアレンジの方法を調べたり、キーボードでメロディを作る練習をしたり、とにかく徐々に制作スキルを磨いていきました。
—ダンス&ボーカルスクールからかなりの変化ですね。いちから勉強していくってけっこう大変だと思うんですけど、挫折はなかったですか?
Roka:いや、ありましたね。オーディオ・エンジニアリングも勉強するようになって、ミックスとかまでやり始めて……ちょっとそのあたりでゴールを見失ってしまって。このまま自分はエンジニアになろうかな、とかまで考えたりもしました。それで一度、音楽を完全にやめたんですよ。もう音楽を聴くこともやめて、その時期はイヤホンしてもポッドキャストしか聞いてなかった。そこから1年以上経って、突然また作曲への情熱が戻ってきたので再度制作に挑戦するようになりました。
—その時、ダンス&ボーカルのスクールはまだ通っていたんですか?
Roka:どうだったかな……時期的にかぶっていたかは覚えてないけど……。
—でもグループでデビューする、みたいなことはもう考えなくなった?
Roka:グループは、最初から自分は考えてなかったんですよ。どうにかソロでデビューできないかな、ということをずっと考えてました。だから、中途半端なスタンスですよね。そもそも、ダンスに対する想いよりもやっぱり歌いたいという気持ちが強かったし、それだったらソロでやりたいなと思ってました。
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Rokaとしてデビュー、福岡在住Co-3olyとの楽曲制作
—その後は、どういういきさつでRokaとしてデビューすることになったのでしょうか。
Roka:ずっと曲を作っていたんですけど、終わりがないんですよね。リリースしないと、曲って延々とずるずる作りつづけてしまう。だから、1回リリースしなきゃと思ったんですよ。それで今とは別の名義でアカウントを作って、楽曲を配信したんです。そこで初めて、曲の終わらせ方を経験することができて。そんな中、今のレーベルが楽曲を聴いてくれて声をかけてもらえて、「Roka」としてのデビューに至った感じです。
—シンガーソングライターでありながらなぜここまで華があってスケールの大きい歌が歌えるのか、ようやく謎が解けました。数奇な経歴をたどっているんですね。その後“CUTENESS”をリリースされますが、これはどのように作っていったのでしょう。
Roka:“CUTENESS”は、もともと別名義で配信していた曲をリアレンジしたもので。最初のバージョンはミックスも全て自分でやっていたんですが、新しいスタートを切るためにプロデューサーさんと一緒に再構築しました。福岡に住んでる、まだ18歳のCo-3oly(コモリ)くんという方です。
—曲を聴いて、すごく不思議に思ったんですよ。というのも、R&Bやソウルミュージックといった音楽をアーティストそれぞれが独自に解釈してDAWを通して表現するというのはこの10年ほどで国内でもかなり増えた印象があるんですが、そこではアーティストそれぞれの身体性というか、独自のクセみたいなものがそのまま楽曲に反映されるのが面白いなと思っていたんです。でも、Rokaさんの曲はそういった作り方をしているにもかかわらず、すごく綺麗でなめらかですよね。この道10年、20年の中堅~ベテランアーティストが大きいバジェットでリッチに作ったような、そういった豪華さがあるなと思いました。
Roka:シックでスタイリッシュな雰囲気は意識しました。ギターの音も、過剰にエフェクトをかけるわけではなく、シンプルにしました。音数も少ないですよね。あと、ミックスもそうなっています。エンジニアの方と10時間くらいずっと試行錯誤を重ねてこのクリーンな形になりました。もともとは、ここまでクリーンな感じではなくお茶目な部分もあったんですよ。
—クリーンな方向のディレクションになったのはなぜですか?
Roka:チームで考えた結果ですね。自分ひとりだと、どうしてももうちょっとふざける感じになっちゃうんですよ。ひとりでシックなことをやっててもちょっと恥ずかしいから(笑)。でもチームで議論していくうちに、今のR&B / ソウルミュージックがDAWで組まれたソフトサウンドで作るのが主流になっている中で、生音志向でやってるシンガーってそんなにいないし、あえてそういうことをやりたいよね、と。あと、グルーヴ感は意識しましたね。1回目と2回目のサビでドラムを変えました。キックとスネアの4分音符感は残しつつ、2回目は「ドゥンドゥン」というキックを入れることによって8ビートの印象を出したり。あと、1回目のサビはスネアの叩く位置を歌に合わせてズラしてますし、色々とこだわりを入れています。
—シンプルに聴こえる中で、技巧が凝らされていますよね。新曲の“冷めぬまま”は一転してバラードです。こちらはさらに音数を絞ってますね。
Roka:この曲はJ-POPも意識しています。個人的にもaikoさんやOfficial髭男dismさん、藤井風さんといった方々のバラードが好きで。バラードに限らず、そういう方達がメインストリームでこんなに自由に曲を作ってるんだ、というのは最近すごく面白いなって思ってます。K-POPにおけるNewJeansも同じような感じで、すごいなって。
—そういった最近のJ-POP、K-POPのルーツもあるのが面白いですね。“冷めぬまま”は、足音が入っているのも印象的でした。ユニークな発想ですよね。映画のようなムードを感じます。
Roka:Co-3olyくんのアイデアで、冬を意識して入れたとのことです。最初、自分が作ったデモでは普通にドラムの音を入れてたんですけど、それをアレンジしてくれて。自分では思いつかない発想ですね。
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ブルースに出会って、人の意見よりも自分の感覚を大切にするようになった
—最近の作曲において苦労している点はありますか?
Roka:楽器があまり弾けないということに苦労していますね。サウンドの打ち込みをやるにしても、一応キーボードを叩いて弾いて作りたいんですよ。MIDIノートの切り貼りは嫌なんです。そうなると、できる楽器によって作れる音が狭まってしまう。それによって、アレンジの幅も狭まっている気がします。だから、理想は楽器のプレイヤーの方たちと一緒にスタジオに入って作る形なんですよ。
—生音 vs DAWという時代の二項対立ではなく、DAWが前提になった時代以降の生音主義ということですよね。DAWを使いながらも、それほど楽器にこだわるのはなぜなのでしょう。
Roka:ブルースに衝撃を受けたからこそ、演奏者の腕前や熱量に魅力を感じるんですよね。実際に演奏している、ということを大事にしたい。単純に音だけで言うとサンプルか生音なのか、わからないことも多々あると思うんですが、「これは生で録った」と言う事実が自分を納得させられるというか。テクノロジーは好きだし基本的には肯定派なんですけど、やっぱりベストは生だと思っています。
—なるほど。こうやって色々な背景をうかがっていると、紆余曲折を経た上でもそれらが全部Rokaさんの音楽の血肉になっているように感じます。様々なことをされてきた中で、自分の強みはどこにあると思いますか?
Roka:自分がどういう音楽を作りたいか、どういう音楽が好きか、ということを分かってさえいれば、曲はいくらでも作れるということに気づきました。それを聴かせて他人が気に入らなくても、自分が納得していればいくらでも作れる。昔は、人がどう思うかをすごく気にしてたんですよ。でもブルースに出会って、自分の感覚を大切にするようになりました。