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『recursive』はAIの崩壊を防ぐ試み
さて、ライゾマ純粋培養の画像生成AIについて知ったところで、いよいよ新作『recursive』の話に進もう。
『recursive』は、先ほどのAIを実際に運用した上で、そこに現実世界のヒトや風景がハプニング的に介入するという試みだ。この作品は鑑賞ではなく干渉するものなのである。

音楽と共に外の大型LEDに映し出されているのが、ライゾマAIの生成した作品。そしてLEDと向かい合うようにライブカメラが設置されている(写真左端)。自分が生成した画像を常に自撮りして取り込みながら、AIは学習を続けていく。タイトルの「recuesive」とは、再起的・循環的・自己参照的という意味。ここからが肝である。
近年の研究によれば「AIに、AIが生成した画像を使って学習させると、そのモデルは崩壊に向かう」という。ここでいう崩壊とは、AIが壊れるとか画像が生成できなくなる……という意味ではなく、生成される画像が現実のデータからかけ離れてしまい、品質が低下して作品たりえなくなるということ。AIが生成する画像には現実とズレがあり、色彩のコントラストなどにAI特有のクセがあるそうだ。AIにAI生成画像で学習をさせると、そのクセの部分がどんどん推し進められてしまい、退化を招くらしい。まさに自家中毒である。
話を聞いて、生まれて初めてAIに親近感を抱いた。わかるよ、大変だよね。だからたまにはチームに新人も入れなきゃだし、配置換えもしなきゃならない。動かない水は腐る。閉じ切った状態だと、自分の我(クセ)が肥大していってしまう感覚は、驚くほど人間的に思えて共感が湧く。

そこで、リアルワールドの出番である。先ほどのライブカメラの前に道ゆく人が自由に立って映り込んだり、移ろう自然光や雨粒がレンズに影響を与えることで、AIの学習するデータには外部からの予測不可能な要素が加わる。それによって、生成画像の崩壊を防げるのではないか? という試みが、この作品なのである。