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リアノン・ギデンズとは誰か ビヨンセ受賞作で注目のバンジョー奏者の足跡を振り返る

2025.2.25

#MUSIC

「カントリー前史」の黒人の存在に光を当てたデビュー

リアノン・ギデンズの活動は幅広い。そのルーツには、ギデンズが「黒人による非白人音楽」(※1)と自称する音楽、ストリングバンドミュージックがある。フィドル(バイオリン)、五弦バンジョー、アコースティックギター、アップライトベースで構成されるこのスタイルは、1920年代から1930年代にかけて人気を博し、そのメッカとされるアメリカ南東部のアパラチア地方では人種を超えて演奏されていた。しかし、1920年代ごろ、カントリーミュージックの前身であるオールドタイムミュージックが「南部の田舎の白人の音楽」として概念化し商業ジャンルとなった。人種によって音楽が区別されたことで、黒人のフィドル、バンジョー奏者の存在は歴史から消去されてきた(※2)。

※1 Brian Seibert, “A Protest Set to Banjo: Jamar Roberts’s Dance for Hard Times,” The New York TimesJohn Jeremiah Sullivan, “Rhiannon Giddens And What Folk Music Means,” The New Yorker

※2 さらに詳く知るためには、細馬宏通「バンジョー史を捉え直す―ビヨンセからリアノン・ギデンズへ」、Hanna Mayree (Black Banjo Reclamation Project)「バンジョーを通じた黒人文化の癒しと再生」、大和田俊之監修 永冨真梨責任編集『カントリー・ミュージックの地殻変動―多様な物語り』(河出書房新社、2024年)。

ギデンズは、歴史に埋もれてきた黒人のストリングバンドミュージックを蘇らせ、それらを現代風に解釈するバンド、Carolina Chocolate Dropsのフィドル / バンジョー奏者兼ボーカルとしてデビューした。このバンドは、ノースカロライナ州西部に位置する山間部の小さな街ブーンで2005年に開かれた黒人のバンジョー奏者が集まるイベント「Black Banjo Gathering」をきっかけに、ドム・フレモンズ(Dom Flemons)、ジャスティン・ロビンソン(Justin Robinson)と共に結成された。

リアノン・ギデンズ(右)と、Carolina Chocolate Dropsのフィドル奏者ジャスティン・ロビンソン(左)。4月18日にリリースされるギデンズの新作『What Did the Blackbird Say To The Crow』は2人の共演によるもの。photo by Karen Cox

2010年にリリースされたデビューアルバム『Genuine Negro Jig』には、アパラチア地方のピードモンド高原で演奏されてきた、黒人によるストリングバンドミュージックの楽曲と、そのスタイルを参照したR&B(TLCや安室奈美恵のプロデュースワークで知られるダラス・オースティン(Dallas Austin)の“Hit ‘Em up Style”)や、オリジナル曲が収録されている。曲や楽器奏法と歌唱法は、ピードモント地方でストリングバンドのスタイルを継承してきた黒人のフィドル奏者ジョー・トンプソン(Joe Thompson)(※)などから直接教わったものだ。ストリングバンドの再現に留まらず、バンド独自の解釈や独特の奏法を通して、軽快かつ物悲しく、古くて新しい音楽が繰り広げられる。本作は、アメリカのフォークミュージックの過去を再考し、未来図を提示したとして、第52回グラミー賞最優秀フォークアルバム賞を受賞した。

※ジョー・トンプソンは、1918年生まれ、ノースキャロライナ州北部のオレンジカウンティ出身のフィドル奏者。父親や従兄弟もミュージシャンで、スクエアダンスや、収穫を祝うコーンシャッキングという集まりで演奏していた。第二次世界大戦後、ストリングバンドの需要や人気が減り、いったんは音楽をやめていたが、1970年代のフォークリバイバルで注目され、従兄弟のオデル・トンプソン(Odell Thompson)と共にThe New String Band Duoとして演奏活動を開始し、カーネギーホールやアメリカ国外でも演奏した。

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