『POP YOURS』が、5月18日(土)と19日(日)に千葉・幕張メッセ国際展示場9〜11ホールで開催される。
今回で3回目を迎える国内最大級のヒップホップフェスティバルが掲げるテーマは「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」。その言葉通り、今年も多様なアーティストのキュレーションでヒップホップの現在地を提示する。
そんな『POP YOURS』の意義をライターのつやちゃんと考える。
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音楽性やジャンル幅を拡張するラインナップ
『POP YOURS』の開催が目前に迫った。まだコロナ禍だった2022年にスタートし、今年で3回目を迎える日本最大級の大型ヒップホップフェスは、この3年間で確実に進化を果たしてきたと言える。

今年最大の注目は、ヘッドライナーであるLEXとTohjiだろう。名実ともに大物と言えるようなラッパーがまだ限られる中で、乱立するヒップホップフェスのヘッドライナーがどれも似たり寄ったりの顔ぶれであることがこれまでも指摘されてきた。そういった中で、LEXとTohjiという選出は抜擢と言ってよいだろうし、『POP YOURS』としては両者を大物クラスに育てていきたいということなのだろう。過去2回を振り返ってみると思っていた以上に客層が若く、この若き2人を大トリに据えたとしても興行として成り立つ算段もあったに違いない。


LEXもTohjiも、SoundCloudでヒットしリスナーを増やしていったという点で共通点がある。昨年のヘッドライナーであるBAD HOPやAwichとはフッドの捉え方がやや異なり、インターネットやSNSにおいてファンの熱量を高めながらコミュニティを拡大してきた新世代ラッパーだ。その世代がいよいよトップに昇りつめたというのは、感慨深い。SoundCloudを主戦場とするラッパーというと1~2分の短い曲で崩したフロウを聴かせるような印象が強いが、LEXとTohjiはそういった軽やかな曲を歌いつつも、一方で生々しい心情を吐露しながらしっかりとストーリーを描き切るような力も備えている。
もう一つの大規模ヒップホップフェス『THE HOPE』と『POP YOURS』を比較した際、前者はミックステープに近く、後者はアルバムに近い。『THE HOPE』は大勢のラッパーが出てきてとにかく次々にステージをこなしていく形式だが、『POP YOURS』はコンセプトを重視したプレゼンテーション型だ。だからこそLEXとTohjiの持つ、ロック~ダンスミュージックといった非ヒップホップの様式美、巧みなステージングといった側面を掛け合わせた「魅せる」ライブは、今の『POP YOURS』に必要なピースなのだろう。
他のラインナップを見ても、曲の力はもちろんのこと、「ショーとしていかに魅せるか」という長所が際立っているラッパーが多い。トリ前のスロットに昇格したguca owlはまさしく昨年のロックスターのようなパワフルな舞台を買われての抜擢だろうし、MFSを筆頭にJP THE WAVY、LANAといったダンサーを従えての舞台を広く使ったショー展開ができる面々は今年も予想通り出演。
また、場の空気を掴む力に長けたRalphやRed Eye、Jin Doggといったラッパーも姿を見せている。
他にも、エンタメ的な楽しさがあるSTUTS、映像などビジュアル面も巧みに駆使するCreateive Drug Storeも名を連ねた。さらに今年は、R&B寄りのアクトとして、Yo-Seaに加えSIRUPも出演予定。音楽性 / ジャンル幅の拡大というテーマでも、毎年試行錯誤が見えるのが『POP YOURS』だ。
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『POP YOURS』の「実験的な編集」
それらは、このフェスが掲げている「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」というテーマを考えると納得がいく。ヒップホップを軸としながら、多様な音楽性をも飲み込んだ上でいかに提示できるか。曲が良いだけでなく、ショーとしてダンスや映像も使いながらいかにスペクタクルなステージを見せられるか。それは、まずヒップホップというカルチャーが一堂に会すること自体に意義があった伝説のイベント『さんピンCAMP』(1996年)とは全く趣きが異なるものだ。


『POP YOURS』がやっていることは、もっとエディトリアルでありキュレーションである。ヒップホップというカルチャーを中心に置きながら、それを編集することでポップカルチャーにもなり得るかという実験をしている。あくまでもヒップホップカルチャーに立脚するのが重要な点であり、ポップカルチャーを標榜するからといって突然ポップスターを連れてきたりするわけではない。微妙な匙加減が難しいところだが、そのあたりは極めて慎重に進めているように見える。
代表的な事例が、『POP YOURS』ならではの企画だろう。昨年はBonbero、LANA、MFS、Watsonによる楽曲”Makuhari”がスマッシュヒットを記録したが、今年はLEXとLANAによる兄妹コラボ楽曲”明るい部屋”やKaneeeとKohjiya、Yvng Patraによる”Champions”、さらにJJJ、BLASÉ、Bonberoによる”YW”といった曲が『POP YOURS』オリジナル楽曲として制作された。
会場でのフード販売は漢a.k.a.GAMIが企画するYouTube番組『漢 Kitchen』から出店があり、現行シーンを俯瞰で眺めながら誰と誰を繋げ、何をどう磨いていくと面白いものになり得るかという工夫が凝らされている。
前述した通り、これらは実験であるからこそ、実際にやってみたところ思うような面白さが生まれなかったということもあるだろう。しかし、その試行錯誤の末にこそヒップホップがポップカルチャーになり得るかという問いの答えは見えてくるだろうし、だからこそ私たちは次々と公開される『POP YOURS』の実験的な編集に身を任せて、わくわくしながら楽しむのが一番だ。
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ヒップホップはポップカルチャーになり得るか?
先日、国内のヒップホップに関する興味深い記事があった。日本での展開を加速させている、TuneCoreの親会社Believe社グローバルミュージックヘッド兼ヨーロッパ社長であるロマン・ヴィヴィアン氏へのインタビュー記事である。彼はそこで「日本はヒップホップが伸びる」と述べている。以下に引用しよう。
私に言わせると、全ての音楽には第2段階があって、オーディエンスの規模がポップスのレベルになる瞬間を迎えるのです。それはジャンルの問題ではなく、規模の問題です。
70年代のパンクやソウルがその道を辿り、今では縮小しています。替わりに来たのがヒップホップでした。実際、アメリカではドレイクが、ドイツではRAF Camoraが、フランスではJulが、様々な国でヒップホップのスターが、億単位のリスナーを獲得し、何百億回も再生されました。
ヒップホップはかつてのジャズやロックと同じように、ポップスを聴く層にリーチするようになったのです。私たちが日本のヒップホップに賭けたのは、同じことが起こると踏んだからです。【特別取材】「音楽業界にとって今ほど面白い時代はない」世界各国でヒップホップを主流に乗せたBelieve社ロマン・ヴィヴィアン氏が語る日本の音楽産業の未来|Musicman
いわゆるイノベーター理論にあてはめるとしたら、ヒップホップのリスナー層はアーリーマジョリティへ進んでいくような段階である、といったところだろうか。ただ、日本国内での主流の視聴環境 / スタイル、音楽にまつわるビジネスモデル構造、(ロックを好むといった)そもそもの音楽的嗜好などを鑑みるに、いささか楽観的な発言のようにも思える。
筆者の私見では、恐らく今後ヒップホップのリスナーは大きくは10代の若い層からしか増えず——幼少期からダンスを習ったりスクールに通ったりする子どもが増え、SNS動画の影響もありヒップホップダンスが爆発的な勢いで身近なものになってきている——、今後数十年の人口動態から推測するに、全体で見るとそのインパクトは極めて小さい。もちろんヒップホップは社会背景と密接に関係しているカルチャー / 音楽なだけに、この国の先行き不透明な政治・経済状況などにより時代がヒップホップを求める可能性もあるが――どうだろうか?

ヒップホップのリスナーが増える / 増えないはあくまで結果でしかないので何とも言えないが、恐らく「文化として常に身近である」ことが大事なのだろう。
インターネットにしろ地元にしろ、自分が生活する文化圏や居場所となるところにヒップホップが草の根を張っていること。フェス / イベントや各種メディアにおいて、ヒップホップについてわくわくするような出来事がたくさん起きていること。もちろん、胸を打つようなすばらしい曲が日々多く生まれていること。そして、知りたくなった時にいつでもヒップホップのルーツやブラックカルチャーについて知れるような環境があること。
それらの重要な役割を、確実に『POP YOURS』は担っている。ヒップホップの未来に向けて、「2020年代のポップカルチャー」という独自の視点で実験を展開するこのフェスが今年も楽しみだ。
『POP YOURS 2024』

日程:2024年5月18日(土)・5月19日(日)
時間:開場10:00 / 開演11:00
会場:幕張メッセ国際展示場9〜11ホール
出演者:
DAY1:5月18日(土)
LEX
Bonbero
鎮座DOPENESS
JJJ
JP THE WAVY
JUMADIBA
KEIJU
Kvi Baba
LANA
Lunv Loyal
MFS
OZworld
ピーナッツくん
Red Eye
STUTS
Yvng Patra
Special Act: OZROSAURUS
NEW COMER SHOT LIVE
JAKEN
Kohjiya
L.O.S.T
(AtoZ)
DAY2:5月19日(日)
Tohji
Campanella
CreativeDrugStore
DADA
Daichi Yamamoto
Elle Teresa
guca owl
IO
Jin Dogg
Kaneee
kZm
7
ralph
SIRUP
tofubeats
Watson
Yo-Sea
千葉雄喜 -チーム友達Shot Live- New
NEW COMER SHOT LIVE
CFN Malik
lil soft tennis
swetty
taro
(A to Z)
オフィシャルサイト:https://popyours.jp