INDEX
「きっと、そうなのだろう」と思える2人の関係
3人の主要キャラクターそれぞれが、観客にとっては共感しやすい立ち位置であることも重要だ。主人公である敬太の「かつて失踪した弟をずっと探し続けている」切実さは、冒頭で行方不明者を捜索するボランティアをしていることから大いに伝わる。彼のことを心配する同居人の司は、映画という媒体で「見守ることしかできない」我々観客により近い。さらに記者の美琴はより客観的な視点を持ちつつ彼らを追っているなど、観客はそれぞれの「距離感」のキャラクターに自己を投影しやすくなっているのだ。
背景には「想像力を掻き立てる」「でもわからない」からこその恐怖があるが、やはり「謎解きミステリー」「キャラクターへの感情移入」というわかりやすい大衆向けエンタメ作品としての調整もされている。ここは、「観客の気持ち」という⽬線の重要さをアドバイスし、「ホラー映画において、いかに観客の興味を継続させるか」「鑑賞後どう印象良く終われるか」などを近藤監督と丁寧に議論しながら脚本作りを進めていったという、総合プロデュースの清⽔崇監督の手腕も大きいのだろう。
もうひとつ、感情移入しやすいと同時に、想像力を喚起させることがある。それは、敬太と司が同居人であると同時に、おそらくは同性カップルなのだろうということ。2人が恋人同士なのか、それとも確かな絆で結ばれた親友同士なのかは劇中で明言されていない。しかし、お互いに信頼して心遣いもしていることがわかる言葉の端々から「きっと、そうなのだろう」と思わせるバランスになっているのだ。

同性愛を扱った作品であると大きくアピールする作品ももちろん良いが、本作のようにそれを大げさに説明したりはしないし、そもそも同性愛だとも断言していない、同性の2人の尊い関係性が当たり前に「ある」と示してくれる作品ももっとあっていいはずだ。前述してきた通り「わからない」ことが恐怖を呼び起こすホラーでありつつも、「はっきりとさせない」ことが登場人物への優しい視線につながっていることにも、作り手の誠実さを感じたのだ。
『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』

出演:杉田雷麟 平井亜門 森田想 藤井隆
総合プロデューサー:清水崇
監督:近藤亮太
脚本:金子鈴幸
企画:KADOKAWA
製作:『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』製作委員会
配給:KADOKAWA
コピーライト:©︎2024「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会
2025年1月24日(金)全国公開