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日本のラウドシーンの礎は90年代〜10年代の大阪から。FACTのレーベルが明かす縁

2025.8.15

#MUSIC

2000年代に国内でFACT、MUSE、Sigur Rós、The Prodigyなどをリリースしてきた「maximum10」のレーベルコンピCD『MAYDIE』が、ディストロ「HOLIDAY! RECORDS」専売でリリースされたのに際して、maximum10が起点となり、カルチャーメディアQeticとNiEWを横断した鼎談企画が実現。HOLIDAY! RECORDSの植野秀章、Yogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINの店長でありバンド・waterweedのTomohiro Ohga、バンド・POP DISASTER / 元 777inchのTakayukiが集まり、1990年代から2010年代の大阪バンドシーンを語った。

前編はQeticにて公開中。記事はこちら

バンド活動と並行して動き出したそれぞれの道。2014年にHOLIDAY! RECORDSが始動

FACTがmaximum10から『FACT』をリリースしたのが2009年。FACTのヒットを起点に、2010年以降のラウドシーンは新たな時代に突入していく。

maximum10(マキシマムテン)
2000年代ラウドシーンのパイオニアレーベル。maximum10のA&Rは777inchやHARD STAR BOARDと対バンしていたバンドマンで、のちに個人イベンターとして『WEST COAST ROCKCITY』を主催。そのイベントには、ELLEGARDEN、GOOD 4 NOTHING、FACTやlocofrank、NEVER GOOD ENOUGH、NEW STARTING OVERなど、当時のシーンにおける錚々たるメンツが出演していた。

Takayuki:POP DISASTERで『Take★Action』を2009年に出して、ツアーファイナルを東京でやったときにけっこう客も入って。機材を片付けるのにクルマを取りに行こうとしたら「すいません、こういうものですけど」って言ってメジャーレーベルの人に名刺を渡されて。そこから何回かやり取りはしたけど結局、とある有名アーティストのDVDをもらって終わった(笑)。その時既に、maximum10と契約する話もあったし。

植野:2010年代の話で言うと、自分がHOLIDAY! RECORDSを始めたのは2014年ですけど、自分のバンド(THE ANTS)は2012年か2013年で止まって、そのあとひとりで弾き語りをやっていた時期があって。そのとき、Ohgaくんにはめっちゃお世話になりました。

左からTomohiro Ohga、Takayuki、植野秀章
取材はOhgaがブッカーを務めるYogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINで実施された

Ohga:waterweedは2011年にEP『who the fuck do you think you are? EP』を出して、2013年にmaximum10のコンピ『MAYDIE!!』に参加するのと同時に移籍して(※)、その年の10月に初めてフルアルバム『CICADA』を出した。

※当時、waterweedとmaximum10を繋いだのは、人気絶頂を迎えていたFACT。「絶対にwaterweedと契約すべき」と強く背中を押されたと、当時を最もよく知るmaximum10のA&Rは語る。

植野:ちょっと話は逸れるけど、TASTY(=RECORDS。Ohgaが立ち上げたレーベル)もディストロをやってたよね。Now Or NeverのZORIさんもやってたし、そういうのを見ていた影響が今に繋がっている気がする。

Ohga:やってたね。自分がディストロっていうものの存在を知ったのも井上くん(ZORI)が最初だった。でも当時はけっこうそういうのをみんながやっていた記憶はあって。MaMaREMONeも正確にはディストロじゃないかもしれないけど、イベントに来てくれた人に自分の好きなバンドの曲をCDRに焼いて配ってたし、自分も当時はそれが欲しくて行ってたところもあった。

Takayuki:まああの頃って完全にD.I.Yだったもんね。POP DISASTERも、自分らでCD焼いて売ってた。今は普通にサラリーマンだけど、当時はずっとバイトしながらバンド。2010年代以降は、ほかのメンバーもわりかしちゃんとした仕事に就いて、そうなってくるとバンドの活動の仕方も変わって。結婚したやつもおるし、あとギターのHossyは癌になって……まあ初期の癌で済んだけど。そういう生活環境のいろいろな変化が重なってあんまり活動せんようになり、最もあれやったのがコロナ。あれで2年くらい俺らも会ってなかった。

Ohga:ライブハウスもまあしんどかった(※)。どうにかドネーションTシャツ作って売ったり、waterweedで配信ライブをやってその売り上げを充てたりしてなんとか。でも数ヵ月だけ休んでけっこう早い段階から営業は再開した。来たいやつもいたし、俺らもやってたし、そこでやるバンドとやらないバンドは分かれていって。もちろんやらないバンドが悪いわけではなくて、ただ、やるバンドは結束が強くなっていったんだよね。

※Ohgaはライブハウス・Yogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINの店長でもある。

植野:自分はバンドを解散したけど、前提としてやっぱり自分は聴くのが好きってことに気づいて(※)。バンドが終わって派遣のバイトとかをしながら、就職した方がいいのかなと思ったこともあったけど、最後にもう一個やりたいと思ったのが、自分の好きなバンドのCDを売ることで。でもどこかのCD屋に勤めるというよりは、とりあえずディストロがやってみたかった。昔からZORIさんとかを見ていた影響もあったし、周りにやっている人も実際にいて、東京の人でもやっている人がいるのを知っていたので。それでHOLIDAY! RECORDをスタートさせて。

※HOLIDAY! RECORDSをスタートさせたのが2014年。その前年に、THE ANTSはベースのソゴーの脱退を発表し、2014年の3月にOhgaが店長を務める新神楽で、解散ライブを開催した。

Takayuki:植野さんとHOLIDAY! RECORDSの存在を知ったときに、今でもディストロをやっている人がおることが衝撃やった。

HOLIDAY! RECORDSの転機は、THISTIME RECORDS との出会い

植野が2014年にスタートさせたHOLIDAY! RECORDは、実店舗はなく、通販サイトとライブハウスでの出張販売で、国内のさまざまなインディーズアーティストの音源を販売するというもの。紆余曲折を得て、植野はバンド時代に影響を受けたディストロの道に足を踏み入れた。

植野秀章(うえの ひであき)
HOLIDAY! RECORDS店主 / 元THE ANTSのGu / Vo。HOLIDAY! RECORDSは、2014年に、THE ANTSでのバンド活動を終えた植野秀章がゼロから立ち上げたディストロ(インディーズやアンダーグラウンドの音源の流通=通販)。当初は、植野が好きなバンドの自主制作音源をライブハウスの片隅で販売する活動から開始。その後はハンブレッダーズ、teto、ズーカラデル、Cody・Lee(李)、TENDOUJI、時速36km、ナードマグネット、Nikoんなどを取り扱い、現在その発信力はディストロという従来の枠を超え、次世代のバンドをフックアップするメディアとして認知されている。「放課後に趣味の合う友達と有名無名関係なく最近のオススメを教え合う、あの感じで(決して品ぞろえは良くせず)厳選された良いバンドしか売らない」というコンセプトで、世に潜在する有名でなくともかっこいいバンドをインスパイアし続けている。

植野:最初は、バンド時代の繋がりがあるバンドのCDから売り始めました。例えば京都のTHE FULL TEENZっていうバンドとか、彼らと仲が良かったAnd Summer Club、さらにAnd Summer Clubと仲が良かったPost Modern TeamやLADY FLASHとか。あとはRamonesの影響を受けているような東京のバンドを集めて売って。バイトしながらで、当時はTwitterの個人アカウントで宣伝していたぐらいでしたが、思ったより最初から売れて。

でもCDは単価が低いし、掛け率でけっこうバンドに返すので、「CDショップってどうやって成り立ってるんだろう」って思ったんですけど、あるときにTHISTIME RECORDSの人と仲良くなって。ディストロじゃないけどネットショップをずっとやっていたので、その疑問を聞いてみたら「IMC(indiesmusic.com)とかどれだけ売れてると思ってるんだよ」って教えてもらって。それはひとつの転機としてあったかもしれません。IMCってパンクとかラウド寄りのギターロックが多かったけど、それとは被らないジャンルで集めて売ったら面白いかなと思って。

1990年代のMaMaREMONeや777incを知り、waterweedのOhgaと旧知の中で、自らもTHE ANTSというバンドで同じ時代を共有した植野が始めたディストロという「天職」。一方でTakayukiとOhgaも、形や方法は違えど、「音楽で生きていく」という道を貫いてきた。

Ohga:waterweedの俺と、ライブハウスの店長の俺は、まったく違う人格。今はHOLY MOUNTAINが出来てまだ1年半ぐらいだから、色がつくのはこれからかなって感じだけど、自分がいることでパンクとかハードコアとか、海外アーティストの招聘とかもここを使ってくれるので。今までやってきたことが繋がっている自負はある。

Tomohiro Ohga(トモヒロ オオガ)
waterweedのBa / Vo、Yogibo HOLY MOUNTAIN店長、元・新神楽のブッカー

Takayuki:俺はしばらくライブも、Ohgaが誘ってくれたり、昔から知るバンドのイベントに出たりとかで、年に数回くらいだったから。でもずっと活動は続けてたし、「続けてるんやったら、やっぱ曲作りたいよな」とは思ってた。でも実際、メンバーは住むところも全然違うし、生活環境もあるから動けてなかったけど、今回は声をかけてくれたから、めっちゃいいタイミングというか、よっしゃ頑張ろうかってなったところかな。

Takayuki(タカユキ)
POP DISASTERのVoで元 777inch(スリーセブンインチ)のBa

2025年8月、maximum10からコンピレーションCD『maximum10 compiles ourselves. MAYDIE.3』がリリースされる。収録アーティストは、Nikoん、POP DISASTER、sfpr、waterweed、十五少女。詳細はこちら

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