2000年代に国内でFACT、MUSE、Sigur Rós、The Prodigyなどをリリースしてきた「maximum10」のレーベルコンピCD『MAYDIE』が、ディストロ「HOLIDAY! RECORDS」専売でリリースされたのに際して、maximum10が起点となり、カルチャーメディアQeticとNiEWを横断した鼎談企画が実現。HOLIDAY! RECORDSの植野秀章、Yogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINの店長でありバンド・waterweedのTomohiro Ohga、バンド・POP DISASTER / 元 777inchのTakayukiが集まり、1990年代から2010年代の大阪バンドシーンを語った。
前編はQeticにて公開中。記事はこちら
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バンド活動と並行して動き出したそれぞれの道。2014年にHOLIDAY! RECORDSが始動
FACTがmaximum10から『FACT』をリリースしたのが2009年。FACTのヒットを起点に、2010年以降のラウドシーンは新たな時代に突入していく。

2000年代ラウドシーンのパイオニアレーベル。maximum10のA&Rは777inchやHARD STAR BOARDと対バンしていたバンドマンで、のちに個人イベンターとして『WEST COAST ROCKCITY』を主催。そのイベントには、ELLEGARDEN、GOOD 4 NOTHING、FACTやlocofrank、NEVER GOOD ENOUGH、NEW STARTING OVERなど、当時のシーンにおける錚々たるメンツが出演していた。
Takayuki:POP DISASTERで『Take★Action』を2009年に出して、ツアーファイナルを東京でやったときにけっこう客も入って。機材を片付けるのにクルマを取りに行こうとしたら「すいません、こういうものですけど」って言ってメジャーレーベルの人に名刺を渡されて。そこから何回かやり取りはしたけど結局、とある有名アーティストのDVDをもらって終わった(笑)。その時既に、maximum10と契約する話もあったし。
植野:2010年代の話で言うと、自分がHOLIDAY! RECORDSを始めたのは2014年ですけど、自分のバンド(THE ANTS)は2012年か2013年で止まって、そのあとひとりで弾き語りをやっていた時期があって。そのとき、Ohgaくんにはめっちゃお世話になりました。

取材はOhgaがブッカーを務めるYogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINで実施された
Ohga:waterweedは2011年にEP『who the fuck do you think you are? EP』を出して、2013年にmaximum10のコンピ『MAYDIE!!』に参加するのと同時に移籍して(※)、その年の10月に初めてフルアルバム『CICADA』を出した。
植野:ちょっと話は逸れるけど、TASTY(=RECORDS。Ohgaが立ち上げたレーベル)もディストロをやってたよね。Now Or NeverのZORIさんもやってたし、そういうのを見ていた影響が今に繋がっている気がする。
Ohga:やってたね。自分がディストロっていうものの存在を知ったのも井上くん(ZORI)が最初だった。でも当時はけっこうそういうのをみんながやっていた記憶はあって。MaMaREMONeも正確にはディストロじゃないかもしれないけど、イベントに来てくれた人に自分の好きなバンドの曲をCDRに焼いて配ってたし、自分も当時はそれが欲しくて行ってたところもあった。
Takayuki:まああの頃って完全にD.I.Yだったもんね。POP DISASTERも、自分らでCD焼いて売ってた。今は普通にサラリーマンだけど、当時はずっとバイトしながらバンド。2010年代以降は、ほかのメンバーもわりかしちゃんとした仕事に就いて、そうなってくるとバンドの活動の仕方も変わって。結婚したやつもおるし、あとギターのHossyは癌になって……まあ初期の癌で済んだけど。そういう生活環境のいろいろな変化が重なってあんまり活動せんようになり、最もあれやったのがコロナ。あれで2年くらい俺らも会ってなかった。
Ohga:ライブハウスもまあしんどかった(※)。どうにかドネーションTシャツ作って売ったり、waterweedで配信ライブをやってその売り上げを充てたりしてなんとか。でも数ヵ月だけ休んでけっこう早い段階から営業は再開した。来たいやつもいたし、俺らもやってたし、そこでやるバンドとやらないバンドは分かれていって。もちろんやらないバンドが悪いわけではなくて、ただ、やるバンドは結束が強くなっていったんだよね。
※Ohgaはライブハウス・Yogibo META VALLEY / HOLY MOUNTAINの店長でもある。
植野:自分はバンドを解散したけど、前提としてやっぱり自分は聴くのが好きってことに気づいて(※)。バンドが終わって派遣のバイトとかをしながら、就職した方がいいのかなと思ったこともあったけど、最後にもう一個やりたいと思ったのが、自分の好きなバンドのCDを売ることで。でもどこかのCD屋に勤めるというよりは、とりあえずディストロがやってみたかった。昔からZORIさんとかを見ていた影響もあったし、周りにやっている人も実際にいて、東京の人でもやっている人がいるのを知っていたので。それでHOLIDAY! RECORDをスタートさせて。
※HOLIDAY! RECORDSをスタートさせたのが2014年。その前年に、THE ANTSはベースのソゴーの脱退を発表し、2014年の3月にOhgaが店長を務める新神楽で、解散ライブを開催した。
Takayuki:植野さんとHOLIDAY! RECORDSの存在を知ったときに、今でもディストロをやっている人がおることが衝撃やった。
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HOLIDAY! RECORDSの転機は、THISTIME RECORDS との出会い
植野が2014年にスタートさせたHOLIDAY! RECORDは、実店舗はなく、通販サイトとライブハウスでの出張販売で、国内のさまざまなインディーズアーティストの音源を販売するというもの。紆余曲折を得て、植野はバンド時代に影響を受けたディストロの道に足を踏み入れた。

HOLIDAY! RECORDS店主 / 元THE ANTSのGu / Vo。HOLIDAY! RECORDSは、2014年に、THE ANTSでのバンド活動を終えた植野秀章がゼロから立ち上げたディストロ(インディーズやアンダーグラウンドの音源の流通=通販)。当初は、植野が好きなバンドの自主制作音源をライブハウスの片隅で販売する活動から開始。その後はハンブレッダーズ、teto、ズーカラデル、Cody・Lee(李)、TENDOUJI、時速36km、ナードマグネット、Nikoんなどを取り扱い、現在その発信力はディストロという従来の枠を超え、次世代のバンドをフックアップするメディアとして認知されている。「放課後に趣味の合う友達と有名無名関係なく最近のオススメを教え合う、あの感じで(決して品ぞろえは良くせず)厳選された良いバンドしか売らない」というコンセプトで、世に潜在する有名でなくともかっこいいバンドをインスパイアし続けている。
植野:最初は、バンド時代の繋がりがあるバンドのCDから売り始めました。例えば京都のTHE FULL TEENZっていうバンドとか、彼らと仲が良かったAnd Summer Club、さらにAnd Summer Clubと仲が良かったPost Modern TeamやLADY FLASHとか。あとはRamonesの影響を受けているような東京のバンドを集めて売って。バイトしながらで、当時はTwitterの個人アカウントで宣伝していたぐらいでしたが、思ったより最初から売れて。
でもCDは単価が低いし、掛け率でけっこうバンドに返すので、「CDショップってどうやって成り立ってるんだろう」って思ったんですけど、あるときにTHISTIME RECORDSの人と仲良くなって。ディストロじゃないけどネットショップをずっとやっていたので、その疑問を聞いてみたら「IMC(indiesmusic.com)とかどれだけ売れてると思ってるんだよ」って教えてもらって。それはひとつの転機としてあったかもしれません。IMCってパンクとかラウド寄りのギターロックが多かったけど、それとは被らないジャンルで集めて売ったら面白いかなと思って。
1990年代のMaMaREMONeや777incを知り、waterweedのOhgaと旧知の中で、自らもTHE ANTSというバンドで同じ時代を共有した植野が始めたディストロという「天職」。一方でTakayukiとOhgaも、形や方法は違えど、「音楽で生きていく」という道を貫いてきた。
Ohga:waterweedの俺と、ライブハウスの店長の俺は、まったく違う人格。今はHOLY MOUNTAINが出来てまだ1年半ぐらいだから、色がつくのはこれからかなって感じだけど、自分がいることでパンクとかハードコアとか、海外アーティストの招聘とかもここを使ってくれるので。今までやってきたことが繋がっている自負はある。

waterweedのBa / Vo、Yogibo HOLY MOUNTAIN店長、元・新神楽のブッカー
Takayuki:俺はしばらくライブも、Ohgaが誘ってくれたり、昔から知るバンドのイベントに出たりとかで、年に数回くらいだったから。でもずっと活動は続けてたし、「続けてるんやったら、やっぱ曲作りたいよな」とは思ってた。でも実際、メンバーは住むところも全然違うし、生活環境もあるから動けてなかったけど、今回は声をかけてくれたから、めっちゃいいタイミングというか、よっしゃ頑張ろうかってなったところかな。

POP DISASTERのVoで元 777inch(スリーセブンインチ)のBa

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「音楽と共にどう生きていくのか?」という問い
同じ大阪のシーンにいた(いる)3人が、それぞれ歩んでいった音楽人生と、そこから与えられた影響。それは一言で語れるはずもなく、一言で語れないからこそ、美しく儚い。それでもあえて、今、この3人に問いたい──「あなたにとって、音楽はどのような存在ですか」。
Takayuki:シンプルになかったらあかんもの。音楽がなかったら今の自分はない。
Ohga:もともとは音楽を聴くのも、ライブを観るのも好きだったけど、自分にとってもはや音楽は造るものであり、演るもの。だから音楽をしっかり聴くとかは、正直もうない。影響を受けたくないし、造る音楽にどうしても関わってきてしまうから。もちろんさらっと聴くことはあるけど、入ってくる音楽は、ライブで観る、聴く音楽だけ。そこからの影響はもちろんある。今まさに生みの苦しみの中にいるから、毎年毎年、毎回毎回。それができなくなったら音楽をやめると思うし、ずっとその苦しみの中で生きていこうと思ってる。
植野:僕にとって音楽は、昔はやるものだったけど、結局のところ語るものであり、伝えたいものだったのかなと。自分が今一番好きなことって、音楽を聴いて、それについての感想を書くこと。それをしている時間が、一番幸せなんですよ。夜10時くらいからやり始めて、1枚のアルバムを聴いて、12時くらいから1時くらいまで「こういう文章にして書こうかな」って考えて、それを発信して。その時間だけは夢中になれる。自分としてはそこに辿り着いた感じがする。

3人それぞれの導き出した答えからは、かつて同じ場所で、同じ時間を共有した末に、それぞれが選んだ道、信じた道が浮かび上がってくる。そして「音楽と共にどう生きていくのか?」という命題への、どれもが間違いではないアンサーとして、これから音楽で生きることを志す人、そして音楽で生きることを諦めようとする人における、「兆し」や「標べ」になってほしいと願う。
maximum10より、あの時の大阪の奥深いシーンに寄せて
実は、僕も、かつては、バンドマンとしてその大阪のシーンの片隅にいた。そのシーンは、本当に新しくて、とんでもなく硬くて、なのに、ダイアモンドの原石とは決して言えないほど、怖くて危なくて、だから、憧れた。
今思えば、彼らに憧れた時点で、バンドマン(アーティスト)としては終わりだったんだろう。僕は、そうして、ステージに立つことをやめ、レコード会社に入った。それでも、あの時代のあのシーンにいた「誇り」というより「燻り」のような感覚に駆られて、自腹でイベントを開催していた。至らぬことばかりだったのに、結果、素晴らしいバンドたちが出演してくれた。
FACTとは、バンドマン時代に対バンしたこともあったけど、そこっていうより、むしろパンクイベンター時代に、同じくTWILIGHTってイベントとレーベルをやってた相坂くんを通じて交流を深めて、結果、契約することになった。FACTからしたら、かつて対バン相手だった奴が、急にエイベックスの名刺を持って来たのだから、最初は、壮大なドッキリだと思ってたらしい。
TWILIGHTは、その後も、ずっとmaximum10を支えてくれた盟友。FACTをメジャーシーンに引っ張り上げたのは、僕らというより、その頃、まだ20代になったかならないの相坂くんと言っても過言じゃない。
FACTが売れたことで、多くのラウド / パンクバンドとの契約の話が舞い込んだ。でも、僕は、どのバンドともサインすることはなかった。ラウドがどんどんと大きくなる中で、maximum10がサインしたのは、あの時の大阪の奥深いシーンにいた(あるいは、影響を受けたり、関係性のある)バンドばかり。
憚らず言えば、あの時、あのバンドたちがいなければ、今のラウドシーンはないと、僕は、今も、昔も、本気でそう思い続けている。でも、ここまで大きなシーンにしたのは、決して、誰か一人とかどこか一部の功績じゃない。そこには、奇跡のような「It’s a small world」が広がっていて、これまで、そのことを話す機会はなかった。
じゃあ、なんで、今になってわざわざこんなことするんだ? って話になるけど、それは、うまく言葉にできない。あえて言うなら、巡り合わせだ。
maximum10は、今年、久々に、新人バンドをリリースする。「Nikoん」というバンド……彼らを初めて下北沢で観たとき、あるバンドのメンバーがDJをしていて、FACTのリミックスを流してくれた。FACT、今でもめっちゃ聴いてます、と言ってくれたとき、僕は、心に久々の血が流れていくのを感じた。
そのNikoんを知ったきっかけが「HOLIDAY! RECORDS」だった。色々と話していくうちに、その店主である植野さんも、POP DISASTERをはじめmaximum10のバンドを聴いてくれていて、waterweedの大賀とも旧知の仲だと知り、結果、「対談しませんか?」という話になった。そうして、また、知るわけだ。何度も、何度も、俺たちは、悪い意味じゃなくあの鬱蒼とした狭い場所そして瞬間で邂逅していたんだと。
こうして、僕は、また、あの時のあのシーンに背中を押された。
アンダーグラウンドの根の張り方の継承は、きっと、未来、地上に咲く花の咲き方に通じているはずだ。それを余すことなく伝えるためには、コンテンツだけじゃなく、プロセスやコンテクストも必要不可欠だと思う。そういう意味で、今回の鼎談プロジェクトは、ドキュメント(記録)でありイベンチュアルな(=誰にでも起こりうる)メディアアート(=あらゆる人々にとって永遠に続いていく自分事)だと思っている。
音楽に世界は救えないかも知れない。でも、誰かの1日、いや、もしかするとたった数秒かも知れないけど、そんな些細な日常を非常に変えることはできると、本気で信じている。
そして、時には、人生があらぬ方向に狂っていく。
その逸脱は、音楽こそ全てである場所 / 音楽でなければ意味のない時間 /音楽が音楽そのものだけで存在できる世界にしか存在しない……きっと「音楽以外のあらゆる外側」でしか笑えない人々にとっての救いなんじゃないか? と、今回の企画を通じて、この3人の生き様に再認識させられた。
「maximum10 compiles ourselves. MAYDIE.3」

2025年8月8日(金)リリース(HOLIDAY! RECORDS専売)
〈下記サイトにて販売中〉
https://holiday2014.thebase.in/items/107806542
・収録曲
01. bend / Nikoん
02. step by step / Nikoん ▶︎ https://youtu.be/jPWefQsakl8
03. elate / POP DISASTER ▶︎ https://youtu.be/9Ejq9v5lBns
04. 555 / POP DISASTER ▶︎ https://youtu.be/U4Gq0bwTg14
05. water_debris / sfpr ▶︎ https://youtu.be/gBwjBYMve9w
06. Sinking / sfpr ▶︎ https://youtu.be/3g6GHmdEAPQ
07. Refuse / waterweed ▶︎ https://youtu.be/tT5Yx05J1CY
08. Frontier / waterweed ▶︎ https://youtu.be/of15XvVRuXc
09. 逃避行 / 十五少女 ▶︎ https://youtu.be/N3qHWx8qTLQ
10. 被投降拒否 / 十五少女 ▶︎ https://youtu.be/20NXj1q-ylg
・価格:2,000円(税込)
※CDのみの商品となります
※ピクチャーレーベル仕様
『maximum10 presents MAYDIE / Issue 1』

・出演:
Nikoん/POP DISASTER/sfpr/waterweed(A to Z)
※ 十五少女の出演はございませんので、ご注意ください。
【大阪公演】
・会場:大阪・難波 Yogibo HOLY MOUNTAIN
・開催日時:2025年8月17日(日)17:00 開場 / 17:30 開演
・チケット:https://eplus.jp/sf/detail/4326310001-P0030001
【東京公演】
・会場:東京・新代田 LIVE HOUSE FEVER
・開催日時:2025年8月23日(土)17:00 開場 / 17:30 開演
・チケット:https://eplus.jp/sf/detail/4325030001-P0030001
・料金:前売り/3,000円(税込)/ 当日/3,500円(税込)