INDEX
『三月の5日間』で気がついた、読書と演劇の共通点
―大学は東京藝大の音楽環境創造科ですよね。高校の時に将来、音楽の道でやっていこうと決めていましたか。
額田:決めてはいたかな。ただ、母親も自分の経験を踏まえて、そっちの道には行かせたくないというのがあったようで「大変だよ」みたいに言われました。それこそ藝大は卒業生に行方不明者が多いとかいうじゃないですか(笑)。周りからも大変だからやめたほうがいいよ、と冷静に言われましたね。

―音楽環境創造科に入学されたのに卒業制作が演劇だったんですよね。その経緯を教えてください。
額田:藝大のオリエンテーションに、当時音楽環境創造科の准教授で『フェスティバル/トーキョー』(※)の元ディレクターの市村作知雄さんがいらっしゃって、チェルフィッチュの『三月の5日間』のDVDを見せてくれたんです。音楽学部の最初の授業だし、現代演劇を見たことない人ばかりで、なんだこれは、みたいな空気だったと思います(笑)でも、そこで意味はあまり分からないけど面白いみたいな体験をして。あと、その後に大学の友人からダムタイプと大野一雄のDVDを勧められて、御茶ノ水のジャニスというレンタルCD屋で借りて見ていて、徐々に演劇やダンス周りも面白いと思うようになってきました。
※2009年から2020年まで、13回にわたって開催された国際舞台芸術祭。現在は事務局が『東京芸術祭』を主催する『東京芸術祭実行委員会』と統合している。
―『三月の5日間』を見て、どんな感想を持ちましたか?
額田:それまで演劇というと劇団四季の『ライオンキング』ぐらいしか観たことがなかったんです。だから演劇は音楽に比べて分かりやすいものだと思っていたんですけど、『三月の5日間』は全然分からないから、何をやっているのかこっちから能動的に探っていかないといけなかったんですよね。それって自分に馴染みのある読書という行為とも近いと気がついて。演劇には、ぼーっと観ているのとは全然違う良さを発見できる作品もあるんだと知って、すごくいいなって思いました。
―額田さんと藝大の同級生でもあるWONKの江崎文武さんにインタビューした時、大学の近くのカフェで平田オリザのロボット演劇の話などをしたのがすごく刺激的だったとおっしゃっていました。
額田:江﨑君とはよく話してましたね。当時からテクノロジーとアート、社会における音楽の在り方に強い関心があって、ストリーミングサービスも、僕の周りでは1番早く始めていました。「Spotifyっていうのがあるからやりなよ」って。そういう劇場やライブハウスだけでない、社会の流れによって変化していく音楽の流れに特に敏感で、そこは一緒に過ごしていたことで影響された部分ですね。

―江崎さんも額田さんも、コンプソンズの金子(鈴幸)さんもゆうめいの池田亮さんも1992年生まれでしょう。演劇畑の方との交流はあったんですか?
額田:コンプソンズという劇団の共同主宰の(金子)鈴幸は、4歳の頃に母親のリトミック教室に通っていました。当時のことはあまり覚えていないけど、近所だったので中学校が一緒で、友達としてはそこからの付き合いです。彼は明治大学の実験劇場っていう演劇サークルにいて。コンプソンズを旗上げする前の実験劇場の公演で、僕は音楽を担当したんです。その作品がすごく面白くて。死んだと思った人が生き返ったりして、でも最後は結局ゴジラが出てきて全部破壊してしまって終わり、みたいな。今と根本はあんまり変わらないですけど(笑)。でも、こういう観客が心地よいだけでない、全てを裏切っていく表現を演劇では作っても許されるんだと思たことは大きいです。
